なのはの登場率が異常Act.8

〜「戦う女の子は好きですか? ……お前キモイぞ?」〜




†


弓弦の私室にて、緑の小人が何やらゴソゴソとやっていた。
上下一体の深緑の服。足首まで裾で隠れているが、編み上げのブーツがスリットからチラリと見える。
長い金髪は三つ編みにして前に垂らしてあっても臍まで届きそうな長さだ。
よく見ると彼女の手には、彼女の体格に相応の大きさの本が握られている。

家族であるはやて達も偶にしか見掛けない、インデックスの人型形態だ。
そんな彼女が主不在でひとり何をやっているのかと言えば。

「サウデュの槍斧を折って魔杖にすれば早いのですが」

(ワシの愛槍を何だと思っとるんじゃ!?)

「どうせ出番はないのだから問題ないと判断します」

(それならガドレドの弓でもいいではないか!)

「フェイルノートの被るので却下します」

傍から見てると独り言にしかならないのだけど。
因みに話し相手は森羅万象目録に搭載された守護騎士システムの2人のうち1人。
堅固なるガドレドと猟犬たるサウデュ。
今作において彼らが活躍する事は恐らく無いだろう。

インデックスは「まあ冗談ですが」と呟いて、弓弦が本局の養父から受け取ってきた
部品を組み上げていく。
まだ未完成らしく骨格が覗いている状態だが、管理局の武装局員が使う魔杖型デバイスに似ている。
インデックスは剥きだしのフレーム部分から伸びるケーブルを手に持つ専用デバイス、深緑の書に
接続させて、魔法の登録や細部の調整をしていく。

「処理速度の向上はこの辺りが限界ですか」

登録する魔法の数を最低限に絞っても、それ以上は望めないようだった。
それでも一般のストレージより早いしインテリジェントとは比べようが無い。
調整が終われば、後は外装を取り付けるだけ。
そう思い手早く済ませてしまおうとインデックスは手を早めるが、急にその動きは止まった。

苦々しいとばかりの表情で、ある方向へと視線を移した。

「無理に悪役を演じる必要はないと、そう私は判断します」

深緑の書に繋がっていたケーブルを外して、睨んでいた目を閉じる。

「ですが、それが主の願いであるのなら」

インデックスの足元に、側に置かれた荷物に、複雑に捩れた魔法円が描かれる。
若草色の魔力光に照らされ、満ちていく。

「私も主も、捧げる事しか、知らないのですから」


光に溶けて、消えた。


†


少し時間を遡って。


「だからっ、僕の本職はっ、司書なんだからね!」

振り下ろされる戦斧を、軸足をそのままに半身を退がらせる事で回避。
切り上げに軌道変化したソレを手甲で防ぐも、膂力が足りずに両腕を使わざるを得ない。
追撃。回避は困難なれど防御は間に合わない。

上体を反らして戦斧を避ける。
鼻先を掠めて通過していくソレを見送り、そのまま上体を反らして地面に手を着いて
反動と脚力で後転。つま先で顎を狙うも避けられる。

「でも、当たらないです!」

後転と蹴撃で開いた間合いをすぐに詰めてくる。
流石に何度も手合わせしてきた経験からか、距離を離す事に警戒しているようだ。
と言っても、朝も早くから人払いの結界があるからと魔法は控えているのだから
あまり意味はないのだけれど。

(まだ速くなるかね…………!)

非力な僕の腕力では、完全に魔法抜きでは防御の上からでも圧倒されてしまう。
僕がどれだけ魔法に頼っているのかが解るというものだ。
だから僕の戦法は自然と砲撃主体の遠距離型になる訳なんだけど……今は関係ないかね。

分割思考により拡張された意識が、フェイトの動きを予測し対応を演算する。
魔法抜きでバルディッシュも戦斧形態であるためリーチは見た目そのまま。
突きから払いへ移行する戦斧を全力で回避。

もう見てから反応していたのでは身体が追いつかない。
いかに予想していたとしても身体が反応しきれない。
体術の強化は必要だなと思い、けれど戦場は僕の居場所じゃないと否定する。

無駄な思考に隙が生じた。

その一撃で終わらせるつもりなのだろう。
大きく上段に振り上げた戦斧が、僕の背後から迫る。
振り返りつつ開いた手が最速で戦斧の峰と柄に伸ばす。

「ごめんねバルディッシュ…………!」

添えるように触れた戦斧。
僅かに筋を逸らし、頭をずらし頬を掠めつつ回避。
そのまま振り下ろしの勢いを殺さず、むしろ強めて地面に叩きつける。

「っ、しまっ…………!」

フェイトが引き抜く前に戦斧を踏みつけ、フェイトの胸を掴む。
此処で放したら、もう掴めない。これで終わらせる。
流れを渡さず、勢いを殺さずフェイトと息が掛かる距離まで身体を寄せる。
柔道で言う大外刈りに似た足払いで押し倒す。

「はい。勝負ありさね」




「…………う〜…………」

「いや威嚇されてもね」

今日の手合わせは終わりにして、僕らは休憩中。
なのはは僕とフェイトの試合を観戦してたので今から練習開始。むぅ、制御系も上達早いね!
何て言うか光弾をギュインギュイン言わせてます。

アレでまだ9歳なんだってんだから、才能ってすげぇや。

公園のベンチに並んで座って、2人でなのはの訓練を眺める。
あ。ちゃんと汗を拭かないと駄目さね、フェイト。
タオルでフェイトの額に浮かんだ汗を拭いてやる。あれ、もしかして熱でもあるんかね?顔赤いよ?

「まあフェイトも凄いんだけどね」

なのはの強みは砲撃と戦術だから、見た目が派手で解りやすい。
フェイトの強みは速さと戦術だから、見た目は地味だし実感も湧き難いんだろうね。

「でも、弓弦さんに勝てませんよ?」

「フェイトの戦い方を何回も見てるからね? 戦術も性能も知ってる。癖もタイミングも知ってる。
 どう動くのかをかなり高確率で予測できるのに、僕の性能じゃ対処できなくなりつつあるフェイトが
 怖いさね。と言ってもね…………」

ぽんとフェイトの頭に手を置いて撫でてやる。
きっと子供がいたら、こんな気分になるのかもしれない。


「…………まだまだ負けてはあげられないさね。もうちょっと2人の壁でいさせてね?」


それだけ言って立ち上がり、なのはのほうへ歩いていく。
スフィアを的にして訓練するのもいいけど、偶には機械じゃなく人間の思考で
練習するのも勉強になるしね。



「僕やなのはみたいな射撃・砲撃型はいちいち避けたり受けてたりしてたんじゃ仕事に
 ならないさね。もちろん単独行動中では仕方ない事かもしれないけど、今は
 アースラのクロノ達もいるんだし、今後の事を考えるとセンターガードのポジションで
 鍛えた方がいいだろうね」

「あ、アクセル!」

「そうさね! 光弾に合わせて最適な弾種を選択。求められるのは判断速度と命中精度。
 それが射撃型の真髄だね……ってコラ、そうやって避けちゃうと」

「わ、わわっ!」

「後が続かない! しっかり腰を据えて撃つ事。面倒だからって大口径砲撃でまとめて粉砕とか
 やってたら魔力がいくらあっても足りないよ!」

「はい!」

「うん。それじゃアンチ・マギリング・フィールドを入れてみようかね!」

「ほえ!? なにこれ!?」

「フハハハ! 射撃でも多重弾殻射撃を使えば落とせるよ。AAランクのスキルだし
 なのはなら使える筈さね」

「それ初耳なんですけどー!?」


なんでかなー
なのはを相手にするとサドっ気全開になるんだけどね。
我れながら凄いスパルタですこと。


◆


「ちなみに、手本にやってみせたらスグに習得しちゃったさね。
 あの習熟速度は末恐ろしいものがあるね?」

「何言ってるの弓弦?」

「ちょっとね」

海鳴に設置された闇の書事件の臨時本部にて、僕は服を細々と弄りながら
バルディッシュとレイジングハートの図面を眺めていた。

「ねえエイミィ。部品の発注とかお願いしてもいいかね?」

「大きな事件だし優先してもらえると思うけど、やっぱり必要になると思う?」

「そうさね…………実力が拮抗しているとすると、デバイスの強化は必須だと思うね。
 それにきっとね、僕が言わなくっても、デバイス達が言い出したと思うよ」

緋色の上着の胸部に布を当てて固定。うん、こんな感じでいいだろうね。
縫い目が表に出るのもアレだし、縫うんじゃなくて繋げてしまおう。

「これから先、将来的に2人はこちら側で生きる事を選択すると思う。
 そうなった時に力不足で悲しむってのは、いらないさね。
 悔しさも敗北も必要で、それを栄養にして成長すればいいけど、悲しみは少ないほうがいい」

なにやら重そうな箱を運んできたエイミィは「そっか」とだけ告げて、
その箱を僕の側に置いた。中身は…………ああ、僕宛なのね。

「弓弦君の予備部品。此処に置いておく? 手元に置いておくなら持ってってもいいけど」

「…………そっか、半年前の事件で寿命が縮んだんだっけね。
 持って帰るさね。流石に見せびらかしたくないしね」

困った事に、僕はもう戻れない。
魔法とは切っても切れない縁が出来てしまった。
本音を言えばなのはやフェイトだって、普通の人生ってヤツを送ってほしかったのだけど、
当人達が選んだ道を、決意を他人がどうこう否定するもんじゃないしね。

んで、箱を置いて僕の手元を覗き込むエイミィさん? 何してるんさね?

「いやね、ソレ」

僕が弄ってた緋色の服を指差して、好奇心に満ちた目で問うてくる。

「うん? いやね、ぶっちゃけ非常に青少年の教育上けしからんと思って。
 よし……次はアルフの…………アルフは何処行ったんかね?」

視界から居なくなっていた使い魔を探す。
なんか静かだと思ったら、僕が渡したベルカの資料を熱心に読んでいた。
きっと使い魔としてザフィーラ、守護獣に親近感にも似た興味を抱いているんだろうね。

「アルフ。ちょっといいかね?」

「んー? なーに弓弦?」

人型になって表情があるのに、表情より耳や尻尾のほうが内面を如実に表現しているってのも
どうかと思うけどね。資料を置いて僕が座るソファーまで寄って来た。
ええい、人型なら人型らしく振舞うさね。犬のようにじゃれてくるな。

「前から思ってたんだけどね。とりあえず上着を脱げ」

「え、ええ!? 何を言っちゃってるかな弓弦君!?」

「別に私はいいって言ってるのに…………」

「いいのー!?」

「そのままにしておく方が問題さね。これでも譲歩してるんだけどね?」

「だって苦しいじゃないさ。男には解らないかもしれないけど」

横でぎゃーぎゃー喚いてるのは放置して、さっさと脱いだ上着を受け取る。
少しは羞恥心と言うものを…………まあ僕が言えた事じゃないね。

「スグに終わらせるから、新形態の子犬フォームとやらで待っててね」

「ん。でもこの手じゃうまく端末が使えないよ」

「自動スクロール機能を使えばいいんじゃないかね?」

また上着の胸部に厚い布を当てて繋げていく。
これで2度目。試行錯誤の必要はない。手早く繋げて終わらせよう。
困惑から復帰したエイミィが何事と視線で問うが、僕はさっき答えたので何も言わない。

「あ。そー言う事?」

「ん。そー言う事さね?」

エイミィは得心がいったのか、苦笑している。
早合点するとは、まだまだ青いね。
誤解を招くような発言? そうかね?

「大体ね、羞恥心を当人が持ってないのが問題なんさね。揺れるし見てるこっちが痛くなってくる」




…………え? 僕が何をやってるのか解らない? 解らないかなー?
要するにシグナムとアルフの戦闘服に胸当てを付けてるんだけどね。
だって○首とか丸解りだよ? そんなはしたない格好駄目に決まってるさね。
いや全国の大きな子供の慟哭が聞こえないのかって言われても…………




「っは!? なんか変な電波が!? 敵襲かね!?」

「いや何を言ってるんだ、君は」

「おおクロノかね。なんか砂漠に飛ばされたんだってね。凄い日焼けだね?」

「3時間も砂漠に放置されたからな。すごく痛いぞ」

「大変さねー」

「ああ大変だった。それじゃ逮捕するから」

「ちょっと待ってくれる? もう少しでコレ終わるから。邪魔すると今度こそむっつりスケベの
 称号が否応なしにクロノの頭上に輝かしくつく事になるさね?」

「すぐに終わらせてくれ。あと僕はむっつりじゃない」



…………あれー?


◆

闇の書。あと92頁(シグナムとヴィータが頑張りました


◆


あとがき。と言う名の無駄な言い訳。

羽:就職戦線で戦う皆様は、無事に内定をゲットできましたでしょうか。
  私は未だに決まっておりません。ちっくしょぉぉぉお!!

律:ただでさえお前の評価は底辺なんだから、頼むからニートにはなるなよ?

羽:私だって嫌だよ!



羽:さて挨拶はこれくらいにして。

律:7話で駄犬が修正前の設定で書いた部分があったので修正。

羽:しない、と言いつつする事になるかも。という事で一応修正。意味があったのかなかったのか?

律:どーでもいいけどおっそろしく久しぶりな更新だよな。

羽:うん。ギアスとかネギまとか面白いよね。

律:そこはせめて学業と就活のせいだと言っておけ。

羽:最近は4コマにはまってるんだ。らいかデイズ面白いよ。つかむんこさん最高。

律:私はまい・ほーむが好きだなー


(締まらないまま終了)


2008/08/025


押してもらえると大変に嬉しいです。