なのはの登場率の低さが異常

〜餓鬼が煙草吸ってた?……背伸びしたい年頃なんじゃねえの?〜





 †


 さてさて、養父さんとの真面目ーな会話に精神値がガリガリ削られた僕はとっとと海鳴に帰ってきていた。
 養父さんはリーゼさんが如何とか言っていたけれど、今あの人達に会ったら衰弱死しかねんしね。
 そもそも局へ行ったのだって、昨晩の戦闘からクロノ達がどう動くのかを探る事と、破損してしまった
 フェイルノートの修復に必要な部品と消費したカートリッジを受け取るためだったのだし。

 そんな訳で洗濯機でも入ってるんじゃないかってくらいでっかいダンボールを1つ背中に縛り付けて
 郊外の森の中に転送させてもらったのだけれど、やっぱり移動手段を用意しておいて正解だったね。

 ごく普通のママチャリに跨ってハンドルを握り締める。
 森から抜ければ後は坂道で、行きは辛かったが帰りは楽ですねっと…………

 「お前に魂があるなら────────応えろ!」

 最近古本屋で見つけた漫画の台詞をパクッてみた。


 プシュー


 …………もうね。あれだね。
 ママチャリの魂の返事はとても嫌な音と振動でしたっと…………

 「うん。まあこんな荷物背負ってる奴が乗ったらこうなるんじゃないかって不安はあったさね」

 ダンボールを背負うために括り付けた紐が肩に食い込んで痛くなってきた。
 おっかしいさねー? さっきまでは重いとしか感じなかったのにねーアハハ…………

 こんな事でいちいち魔法なんぞ使ってたら人として堕落すると日々戒めてきた自分が今は憎い。
 基本的に楽できるなら楽なほうへ逃げるタイプの人間ですよ僕。
 この世界で魔法は異端。と言うか異常なんだからと日常生活に持ち込まないようにしているんだけどなー……

 家までの距離と荷物の重さ、それプラス自転車のパンクを考えると憂鬱。

 「…………もうゴールしちゃってもいいよね?」

 『不許可であると断言します』

 「いや何故かそんな台詞が頭に浮かんでね? これがシルバの言う強制力ってやつかね?」

 因みにシルバとは局で知り合った友人。
 共に無限書庫で働く同僚であり、面白い漫画や小説やゲームを薦めてくれるいい人。
 そう言えば以前「18歳……これで遠慮なく──ゲーが買えるわね。いえ遠慮とか最初からしてないけど」とか
 言ってたけど、何か欲しいものでもあったのかね?いや途中声が萎んでいって聞こえなかったんだよね。

 『……我が主。ミス・シルバとの交友は控えるべきではないかと私は愚考します』

 「なんでさね? 面白いし好きなタイプなんだけどね? 彼女が薦めてくれる本とかって面白いし」

 『……主に自覚はないと判断。主が今後オタクと称される人種へ到達する可能性……否定できないと判断します……』

 何やらインデックスがぶつぶつ呟いてるけど、よく聞こえない。
 まあ必要な事ならちゃんと言ってくるだろうし気にしないでおこうかね。

 「まあ、流石にこれ背負って歩くのは辛いし、僕の部屋に転送しておいてくれるかね?」

 『あ、はい。了解しました』

 「それじゃあ自転車引き摺って帰りましょうかねーチクショー…………」


 †


 艦船アースラが本局で補修や整備を受けている事を理由に、リンディ・ハラオウンは今回の
 魔道師襲撃事件の一時的な仮設本部を地球に設置する事を決めていた。

 はっきり言って、個人的に交友のある魔道師への配慮が過剰なのだけれど。
 提督クラスの役職につく人間が公私混同している事に疑問を感じなくもない。
 まあ、公明正大な組織とはいえ、義や情を忘れないと言えば聞こえはいいのだけれど。

 なのはの家のすぐ近所になりま〜す♪の言葉通り、いやホントに近所に用意された臨時作戦本部。
 設備が運び込まれているとはいえ、その中身はごく一般的な……と言うには広いし上質だけど、
 ともかく見た目は普通のリビングにて、クロノはモニターを使わず端末に直接表示された資料を
 読んでいた。

 微妙にその背中が煤けてるように見えるのは気のせいだろう。
 決してなのはの友人が訪ねてきた時に質問攻めにされたせいではない。…………まあ多分。

 「……やっぱりだ」

 端末に表示される最新の資料を読み漁っていたクロノは、その全てに目を通して、最後に呟いた。

 読んでいた資料とは、一見して魔道師襲撃事件とは無関係とも思える資料。
 ここ数ヶ月に文化レベル0の原生世界で観測された魔力反応などなど…………
 この世界から個人転送で向かえる世界もあれば、転送ポートを使用しなければ転送不可能な世界とバラバラ。
 しかも人的な被害はまったくない。今回の事件とは無関係と普通は思うであろう資料。

 けど、それを無関係とは思わない者がいた。

 「闇の書の蒐集には、何も人間のリンカーコアだけが標的になるわけじゃない。大型の魔獣からも
  蒐集が可能なのはこれまでの事件でも何度も確認されている」

 その言葉には「だから」と続くのか、それとも別の言葉を続けたかったのか。
 クロノの胸中には今、2つの想いがぶつかり互いを否定しようとしていた。

 ひとつは『肯定』。
 ひとつは『否定』。

 やっぱりと思うと同時に、違うと否定してしまう矛盾の繰り返し。


 「信じたい…………けど、君しか…………」


 少年が最後に選んだのは、肯定か否定か…………
 ただ、少年が立ち上がり暗くなりつつある空を仰いだ頃には、その顔は思い悩んでいる顔ではなかった。


 †


 フェイルノートの外部装甲を交換して、細かな修理をインデックスに任せてリビングへ戻る。
 しかし普段が書物形態だから人型になられると違和感湧きまくりだよね。ホント。
 妖精とかいる世界だとして、あれは悪戯好きなピクシーと言うかブラウニーの類に違いない。

 …………まあ、ブラウニーって僕の渾名のひとつでもあるんだけどね。

 なんでかね? 家事全般できる男はブラウニーとか評価を貰う事が多い気がするね?
 父子家庭になって、覚えなきゃ困るって状況になったら誰だってブラウニーになれるさね。
 ああいや、もちろん適正はあると思うけどね。

 …………我ながら凄い無駄思考さね。切り替え切り替え…………

 リビングに入るとザフィーラは床で、ヴィータはソファーで寛いでいた。

 「ヴィータ。はやて達は?」

 「はやてはシャマルと風呂入ってて、シグナムは庭で素振りしてるぞー」

 そーかね。
 キッチンへ移動しつつ目で確認すると、確かに庭で素振りしているようだった。
 ああうん。よかった…………ちゃんと竹刀を使って素振りしてるさね。
 最初レヴァンティンを構えた時は素で新聞ハリセンで突っ込んでしまった。
 刃物振り回す危険人物がいると近所の人に噂されたらどうするつもりだったんだろうね。

 「なあ弓弦にい」

 「ん? なんさね?」

 急須で玄米茶を淹れていると、ヴィータがこちらに身を乗り出していた。
 はしたないからソファーに立つんじゃないと注意しても、あんまり聞いてくれないんだよねこの子。

 「ちょっと聞きたいんだけどさ、弓弦って昨日戦った白いのや黒いのと友達なんだよな」

 「そーさね。白い戦闘服の子が高町なのは、黒い戦闘服の女の子はフェイト・テスタロッサで男のほうは
  クロノ・ハラオウン。ザフィーラと戦ってた使い魔はアルフで、金髪の男の子はユーノ・スクライアさね」

 指折り数えながら昨夜の戦闘に参加していた管理局チームの面子をあげていく。
 しっかし深く考えなくてもよく無事だったよねー僕ら。何気にピンチだったよね。

 「ふーん…………高町なの、なん…………呼び難い!」

 「そうかね?」

 淹れたお茶を一口啜りながらソファーまで移動して座る。
 ヴィータの分をテーブルに置いてやると渋い顔される。あれ。玄米茶って嫌いだっけ?

 「いやさっき自分で淹れたんだけど…………はやてや弓弦にいみたいに旨くできなかったから」

 「こんなの慣れさね。慣れ。んで、あの子達がどうかしたさね?」

 ず〜っと呑むと行儀が悪いと指摘されたんだけど、何故か日本茶は音を立てなきゃ駄目って感じしない?
 いやホントにどーでもいいけどね。

 「ごめんな弓弦にい…………あたしらが見付からなけりゃ友達と戦う事になんなかっただろうし」

 お茶フイタ。
 「ぶはっ!」って感じじゃなく「ぷぴっ」って感じにフイタ。

 「な、なんだよー! あたしが謝るのそんなにオカシイかよ!」

 「いやオカシイってか貴重だからね?」

 テーブルと床に飛ばしてしまったお茶を台布巾持ってきて拭く。
 乾くと茶渋ってなかなか厄介だと思うんだけどどうかね。

 ヴィータは怒り心頭とばかりに顔を真っ赤にして睨みつけてくる。
 何だか最近睨まれる事多いねーちょっとオジサン悲しくなってきたかもしれないさね。嘘だけど。

 「管理局だって無能じゃないからね。この1ヶ月の蒐集で、何かが起きてるって事はとっくに掴んでいたさね。
  そこにあの子達が来るのも、まあ状況的にそうなるかな?って程度には覚悟してたからね」

 すぐに対応できて、それなりに実力もあるチームとなると、それこそ限定される。
 現状で動けたのはアースラのスタッフと外部協力者のなのは達と嘱託契約してるフェイト達くらいか。

 「それに好都合さね。あの子達の手は解ってるし、その人柄もね」

 クロノとリンディさんが、闇の書を前にしてどう行動するのかは計算しきれないけどね。
 けど、なのはやフェイトの目がいいストッパーになる気がする。
 まあ僕の勘でしかないけれど、あながち間違ってるとも思えないんだよね。

 「…………ヴィータ、ザフィーラ。はやてが眠ったら、蒐集に行く前に最後の打ち合わせをしよう」

 「場所はいつもの屋上でいいのか?」

 「ああ。ココから最後まで、もうあまり時間もないしね」

 なんとなく、下げていた顔を上げた。
 たった数年だけ生活していた家の天井。

 (局の風評を守りたがる上層部が『歴戦の勇士』である養父さんを悪いようにはしないはず。
  僕らが上手くやれば養父さんの罪状は捜査妨害くらい。希望辞職か、その程度で手打ちにするだろうね)

 此処は僕が居てもいい場所なのか、未だに答えは出ないけど。

 「絶対、はやてを助けような…………」

 「必ず助けるさね。絶対に。何があっても」

 僕はこの子達と一緒にいたいんだ。

 だから考えろ。お前にできる事なんて、それくらいしかないのだから。
 観測した情報から未来を計算しろ。
 状況から読み取れる全てを残らず読み尽くせ。

 分割思考を活かせ。それがお前自身の持つ唯一の技能なのだから。
 計算しろ。
 予測しろ。

 要素全てを把握し尽くし、掌に乗せろ。
 お前は役者にして原作者。
 お前は役者にして監督だ。

 舞台に立つ全てを操り支配し尽くし、お前の望む結末を演出しろ。
 それこそがお前の役割。
 それこそがお前の役目。

 お前に出来る事などそれだけだ。
 考え動き立ち止まるな。
 前を向いて歩き続けろ。


 埋没していく。既に意識は外界ではなく内界に沈もうとしている。
 眠りではない。認識した全てを予測するための必要儀式。


 だと言うのに何故か、埋没しようとする意識が外界に何かを求めている。
 それが何なのか理解しようと眼を開けると


 「…………そんなに煙草が吸いたいんかね、僕は…………」


 箱から取り出された煙草が1本。指に挟まれ揺れていた。


 †

 あとがき。

 羽山:やっちまったんだゼ!
  律:黙れ。とりあえず黙れ。

 羽山:いやはや…………書くだけ書いて放置されるはずだったSSなのにねえ…………
  律:SSランキングに入ってたのには私も愕然としたけどね。
 羽山:未だになのは熱は冷めてないって事の証左なのかな?

 拍手コメ返し〜

 羽山:と思ったけど、確認とってないしなぁ…………
  律:そもそも晒す必要あんのか?と言いたい。
 羽山:いやいや、煙草と感想と拍手が私の燃料デスカラ?

  律:……まあ、書いてもいいぞーって人は一言添えてもらえると助かります。
 羽山:逆に内容は晒さないでって人はHNでも書いておいてもらえれば、名前だけ書いて
    内容は書きませんので、どうか協力してやってください(土下座


 羽山:さて…………あとなんか報告あったっけ?
  律:ん、掲示板だな。なんか接続できないって人がいるようですが、スミマセン原因不明です。
 羽山:昔はやったら重かったり接続ができなかったりだったけど、最近は調子いいみたいなんですが……
  律:それと、スレ形式に変更する予定なので、今までのコメが全部消えてしまいます。
 羽山:いやもうホントすみません(土下座×2


 羽山:最後になりましたが、読んでくださった方々に感謝。
  律:…………なあ、ところでクロノのシーンなんけどさ。
 羽山:ん?何かね?人が綺麗に纏めようとしているというのに。

  律:なんかBL臭ぇんだけど。

 羽山:アッ──────────────!!

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