なのはの登場率の低さが異常

〜壊れた人形と魔法?新手の都市伝説か?〜





 †


 12月2日。〜そして此処は再び戦場となる〜


 †


 沈んでいた意識が浮上していく。

 『あの子供の容態は?』

 『峠は超えました。もう少し処置が遅ければ間に合わなかったかもしれません』

 身体がひどく痛む。

 『そうか…………』

 『ですが……過剰に供給された魔力の負荷に耐えられなかったんでしょうね……』

 頭がぼーっとしていて、なんだか気持ち悪い。

 『な!? そんな…………!』

 『運び込まれてすぐに崩壊が始まったんです。左腕と内臓の一部ですんだのが不思議なくらいで……』

 すごく眠いのに、眠っていたのに…………どうして起こすの?

 『それと件のロストロギアですが、彼と密接にリンクしていて、その…………』

 『摘出は不可能か…………』

 『無理に切り離そうとすれば…………あの子は確実に死にます。医師として切除は認められません』


 ───────パキッ!!


 『提督…………』

 『これが……私の招いた結果だ! 何も知らない子供にこんな…………!!』

 …………どうして、泣いてるの?

 『そんな、麻酔で眠ってるはずなのに…………』

 どうして、そんなにも悲しそうな目をしているの?

 『体質が変化している!? 駄目だ! おい、直ぐに人を寄こせ! 変質させてしまったらこの子は──────』

 「おじさん」

 『わ、私が解るのかね?』

 『提督! 今医師が来ます、下がってください! 』

 「泣かないで」

 『───────っ』

 「悲しいのは…………駄目なの…………」

 『あ………あぁ…………ああ…………!』


 悲しい人がいると、周りの人も悲しくなっちゃうから…………
 だから、悲しい涙は駄目なの…………


 ──────────────────────────少年が壊れる、ほんの少し前。


 †


 海鳴市にある風芽丘図書館。
 大きな外観に恥じない蔵書量を誇る、立派な図書館だ。

 その中にある『芸術』に分類別けされた本棚の間にいるのは月村すずか。
 目当ての本や他に興味を引く本を探していた。

 それは、どんな偶然だったのか。

 自分の立つ側と、その向こう側の本棚で生まれた空きスペース。
 そこから彼女が見たのは、足を不自由しているのだろう。車椅子に座って届かない本に手を伸ばす少女。
 少女の手はぎりぎりで目当ての本には届かず、ぎりぎりだからこそ、自分で取ろうと努力していたのかもしれない。

 僅かばかりの逡巡。
 元来大人しい少女は、けれど優しい性根の持ち主だった。

 「あ……」

 「これ……ですか?」


 邂逅。



 「えと…………私、月村すずか」

 「すずかちゃん。八神はやて言います」

 同い年という気安さと、お互い何度か図書館で見掛けていたという事が幸いして、会話はしやすかった。

 「平仮名ではやてやけど、漢字にしたら『疾風』やってにいやんは言いよるけど」

 「ふふっ、綺麗な名前だね」

 「前はへんな名前や思ってたけど、格好いいて褒めてくれたんよ」

 そのにいやんは本局の簡易裁判所の証人席でくしゃみをしていた。
 『風邪かね〜?』『悪い噂じゃないのか』
 なんて執務官君とのやりとりがあったかは、本人達のみぞ知る。

 「お父さんはどんなつもりでつけたの?」

 「あ〜、うちの父さんも母さんもおらんくって」

 話のとっかかりと思った話題は、いきなりの地雷だったらしい。
 困ったように笑うはやてに泣きそうな顔で謝るすずかだった。

 「ええんよ。それに独りだけいうわけやないし」

 「えと、お兄さんがいるんだよね」

 明るい笑顔に気不味さはすぐに払拭されて、2人の少女は短くも楽しい時間を過ごした。






 「……あれ? そーいえばなのはちゃんが前にはなしてた人の名前も弓弦さんだったような……?」
 「明日、なのはちゃんに聞いてみようかな」


 †


 深夜になっても街はイルミネーションに彩られて様々な色彩に輝いていた。
 しかし輝く街に人影はなく。その様はさながらゴーストタウンだ。

 そして地上でも天でもなく中空に輝く閃光。
 つまりは、爆発。

 「ちい……尾行られていたか……」

 「へっ! つっても、こいつら雑魚だ。闇の書の餌にしてやる」

 持っていたカートリッジも少なくなり、今夜の蒐集はここまでと切り上げたまではよかったのだが、
 家に帰るまでの転送を管理局の人間に尾行された。

 だが侮るな。
 局の下級捜査員が数人で如何こうできる相手ではないのだ。

 だから、その数人を雑魚と断じて、侮ってはいけなかった。

 「過去の記録と甲冑こそ違うが、君達は闇の書の守護騎士だな」

 「抵抗せず、武装を解除して」

 捜査員達は、もうすでに役割を果たしていた。
 力が及ばない相手を発見して追跡。その行く先まで追って、あとは戦う者にバトンを渡せばよい。 

 そうして現れる黒衣の魔道師。
 管理局執務官。クロノ・ハラオウン。
 管理局嘱託魔道師。フェイト・テスタロッサ。その使い魔アルフ。
 AAA+とAAAクラスの魔道師が2人。

 「っち……2対3か……上等だ」

 「待てヴィータ。まだだ」

 騎士達を挟むように、黒衣の2人と反対側位置するビルの屋上。
 そこにも2人の魔道師が立っている。

 白の装束に身を包む少女。高町なのは。
 民間の外部協力者とはいえ、その実力は先の2人にも劣らぬAAA。
 そして知識の探求者の一族に名を連ねる結界魔道師、ユーノ・スクライア。

 これで2対5。
 己の不利を認めるも、それでもベルカの騎士。ヴォルケンリッターとしての誇りがある。
 主に不義理をしたまま、そして己が課した役目も果たさず敗れるなど出来るわけがない。

 (……シャマル……)

 (弓弦さんとシグナムに連絡したんだけど…………)

 (何かあったのか?)

 (もう〜! あの2人ったら上位竜を2匹も相手に戦ってたのよ〜!?)

 頼れる仲間へ思念で連絡をいれてみれば、仲間の答えは半分以上泣きの入った声だった。
 聞いていたザフィーラもヴィータも、恐らく相対する魔道師3人も聞いていたのなら同じ顔になっていただろう。

 開いた口が塞がらない。

 「ば、馬鹿か!? あの2人!?」

 「その状況でシグナムが抜けて弓弦殿は無事なのか!?」

 あまりの馬鹿っぷりにテンパってるのか、思念通話の内容を口にだしてる2人。
 しかも共犯者の男の名前まで言ってというか叫んでしまっているのだから笑えない。
 幸いな事に距離があったおかげか、管理局側の3人の耳には届いてはいなかったが。

 (大丈夫なわけないと思うんだけど……大丈夫だからって弓弦さんがシグナムを強制転送しちゃって)

 「本格的な馬鹿だー!?」

 ヴィータの絶叫がなんとも虚しい。滅多に動揺を見せないザフィーラでさえ慌てている。
 もうどーにでもなれと開き直ったほうが楽な事もあるよねと言いたい。

 (………え…………嘘……………?)

 「こ、今度は何があった…………?」

 嫌な予感がする。
 囲まれた2人だけでなく、転送中で思念通話を聞いていないシグナムまで感じている。


 ──────────────猛烈に、嫌な予感がする。


 (…………通信が途絶えちゃった…………)


 「いやいや洒落んなってねーよ!? 死んだのか!?」

 「ええい! こうなれば我らが助けに行く他あるまい!!」

 ここで、状況が違っていたら。
 少なくとも弓弦の本質を知ってさえいれば、こうも慌てる事はなかったろう。
 少なくともこの場を離れる事を優先させていただろうに。





 そんな口が閉じれない空気を作り出した原因の男。

 「……っくそ……フェイルノート……モードリリース。ごめんね、帰ったら…………直してあげるからね」

 『アリ、ありがトウござざイますス。ぼス』

 本体の破損は軽度だけれど、負荷がかかりすぎて回路が幾つも焼き切れてしまったフェイルノートを
 待機状態にさせる。ブレスレット状になった愛機を外套のポケットにそっとしまいこんだ。

 シグナムを転送させて、インデックスに記録された対竜種用魔法で上位竜を倒したまではよかったが……

 「流石に2匹同時はキツイさね〜…………」

 『自殺願望の発露ではないかと推測。精神科でカウンセリングの必要があると判断します』

 自然とこぼれる愚痴にまで律儀に突っ込みを入れてくれるねインデックス。

 『(オロオロ)』

 「あのね…………一度だって自殺したいなんて思った事はないさね」

 それに変な事を言うものだから闇の書だって困っているさね。
 冗談に聞こえない冗談は止めろといつも言ってるのにね。

 竜が倒れた衝撃で折れた樹に腰掛けて、深緑の外套・・・・・から煙草を取り出して一服。
 困った事にフェイルノートにシャマルとの思念通話を中継してもらっていたのだが断線してしまった。
 変わりにインデックスに飛ばしてもらっているのだけれど、直ぐには復旧してくれないだろう。

 「あ〜…………シグナム達は大丈夫かねー…………」

 あの騎士達が負けるとは思わない。
 けど、相手が少々悪いと言うのも否定できない。

 実戦経験が豊富なクロノを筆頭に、フェイトと彼女の使い魔アルフ。
 そして結界魔道師のユーノと半人前とはいえ素質有り過ぎのなのは。
 しかもその後ろには管理局という巨大な組織がついているのだから。

 「……速いとこ加勢に行きますかね……インデックス、融合解除」

 ずるり、と自分の中からひどく大切な何かが抜け出ていく不快感。

 (何度やってもコレには慣れそうも無いさね……)

 身体から魂を引き摺りだされるような感覚、とでも想像してもらいたい。
 実感は湧かないだろうけれど、それが一番近いイメージだろう。

 『解除成功…………今回の融合での損傷は「シャマルとの通信復旧、急ぐさね」……はい』

 辛そうに報告しようとするインデックスに言葉を被せて遮る。
 自分の身体の事だ。よく解っている。

 「んじゃ…………闇の書、蒐集開始」

 『蒐集』

 さて。事件の隠蔽は限界で、管理局に気付かれた。
 第1級捜索指定は伊達じゃない。すぐに管理局だって本腰で事件の解決へ動くだろう。

 ──────いっそ、全てを話してしまおうか?

 …………なんて甘い誘惑。
 あの親子もそうだけれど、なのはやフェイトは随分なお人好しだ。
 真実を知れば闇の書に同情して、そして協力してくれるかもしれない。
 ……リンディさんとクロノは立場も肩書きもあるしそれは無いか。

 やはり出来ぬ相談だ。

 闇の書の蒐集にはリンカーコアが餌として必要になる。
 あの優しくてお人好し2人は、自分のリンカーコアを提供しようとするかもしれないが、
 それでも残りの頁は埋まらないし、最後の戦闘で戦えなくてもこちらが困る。

 足りない頁を埋めるためのリンカーコアの蒐集は違法だ。
 献血や募金のように局員に提供してもらえるわけもない。
 ならば強奪するしか手段はない。それに、あの子達まで巻き込むわけにもいくまい。

 闇の書が夜天の魔道書であった頃のまま、僕の森羅万象目録インデックスのように資料本のままならよかった。
 血と屍で築かれた憎しみは、悪意もって闇の書を改変した者が負うべき罪。

 闇の書自身が、主を殺してしまう、破壊しか出来ぬ自分を悲しんでいたとしても関係ない。
 危険だと破壊を訴える者は必ず現れるし、被害者や遺族からの怨嗟の声も必ず生まれる。

 …………その証拠が僕自身というのは皮肉なものだ。
 完全破壊や永久封印を願う人がいたからこそ、僕は魔道の世界へ足を踏み入れる切欠ができて、
 そしてあの街で暮らしているのだから。

 始まりの罪は闇の書を改変した、もういない何処かの誰か。
 なら、終わりは誰が担えばいいのか。。

 ────────答えは既に出されている。選択は既になされている。

 腰を下ろしていた樹から立ち上がる。
 視線は前へ。後退など知らぬ。この身はただ進むのみ。
 クロノ達がいる以上、インデックスは使えない。
 いや必要なら使うけれど極力避けるべきだろう。


 「行こうかね。インデックス、闇の書。待ちに待った悪役の出番さね」


 それはいつから始まっていた演目なのか。
 舞台に立つ役者達は何人も交代していき今代の役者で最後となる。
 上がったままだった幕はようやく下りて演目の終了を告げるだろう。

 自己犠牲に酔っていると笑わば笑え。
 行動無き正義より、ずっと上等な偽善だ。
 正義が語る法で犠牲が生まれて、それが掛け替えの無いものなら、僕は悪をなそう。

 死なせないし失わせない。どうせ消えるなら死に損なった奴が死ね。
 それを悲しんでくれる人は、自惚れかもしれないけど、いると思ってる。

 けれどそれは僕の死後。なら知った事じゃないさね。
 死んだ後の事まで面倒みれる奴を僕は見た事がないし聞いた事も無い。
 開き直った自己中の行動力を舐めるなよ?


 『(ごちそうさまでした)』

 『台詞・行動。共に似合っていないと判断します』

 「……さて、やっぱりもう1本吸ってから行こうかね……」


 上げた腰を元に戻して、外套にしまった煙草をまた咥える。呼吸器が焼ける感覚がなんとも言えないね。
 とりあえず帰ったらフェイルノートの修復とインデックスにエアリード機能の搭載を検討しよう。
 どうしてこんなシリアスな空気を台無しにしてくれるのかねこの子達は…………

 決して悲しいから泣いているのではない。
 煙草の紫煙が目に沁みただけである。
 ほ、本当だからね!?


 『警告。あちらの戦場では身分を隠す必要があると判断。警告。魔法発動の為のデバイスが存在しません。
  なお、私に施された能力限定は解除可能。指示を求めます、我が主』

 「…………………………………………あ」

 ごめんなさい。エアリード機能がないの僕も同様でした…………orz


 †


 闇の書。残り152頁。


 †


 あとがき。

 羽山:「何と言うか原作無視…………」
  律:「反省は?」
 羽山:「多少。しかし後悔は…………やっぱり少しだけしてる」

  律:「と言うか、度々でてくる竜についての話だけど…………」
 羽山:「ああ、本当にね。何なんだろうね上位竜とか?」
  律:「原作には何か資料とかなかったわけ?」

 羽山:「いやテレビで放送されてた分しか資料ないし」

  律:「待て。激しく待て!」

 羽山:「サラウンドステージとか漫画版とかもあるみたいだけど、そんなん知りませんよ?」
  律:「つまり妄想や想像で補完した結果と?」

 羽山:「一応はwikiとか覗いてみたんだけどねー、書いてから資料とか見ても意味ないよネ?」
  律:「とりあえず死ね。何は無くとも死ね」


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