なのはの登場率の低さが異常

〜誰が主人公かって?…………主人公とかお前は厨か?〜




 † 〜いつかくると知っていたはじまり〜


 ―12月1日 午前6時00分―


 海に隣接した街、海鳴市。
 僕がこの街で生活するようになって、もう3年。
 此処は……良い街だ〜ね〜……

 朝の冷気をいっぱいに吸い込んで、吐き出す。
 日課としているジョギングのコースにある桜台の公園。
 この公園から街を見下ろしなつつ朝の珈琲を飲む事まで、もう日課となった。

 「おはよーございまーす!」

 ………そう。こんな風に声をかけられるのも日常になったね。
 声のした方向へ顔を向ければ、今日も元気そうに走ってくる少女が1人。

 「ああ、おはようさね」

 「えへへ、今日もお願いします」

 この、微妙に脳が天気……訂正。あー、危ない薬を服用したかのように元気な………さらに訂正。
 えーっと、この栗色の髪を小さくツインテールにして、スポーツウェアを着込んだ元キ印の少女。
 名を高町なのは。平仮名で『なのは』というらしい。………漢字に変換すれば菜の葉かね?

 「ん。人払いの結界は展開してあるから……操作系の訓練始めようかね」

 本来ならこの小さな魔道師の教育係は、彼女のレイジングハート相棒で充分なんだけどね。
 此処を訓練場所にしていた僕の運の無さを嘆くべきか、なのはの積極性に泣くべきか悩むね。

 「今日はちょーっと難易度上げてみようかね」

 そう言って僕が取り出したのは…………財布。
 500円硬貨を取り出して、なのはに渡す。
 渡された本人は「?」と首を傾げて小動物めいた愛らしさが……ノイズが混じった。

 「なのはもジョギングした後だしね、それで先に飲み物を買ってくるといい」

 「じ、自分で払────────────」

 「ああ、僕にはこの珈琲と同じやつを頼むね。ホットを2つ」

 「………ようするに使いっ走りなの………」

 とぼとぼ。なんて効果音が聞こえてきそうな足取りで近くの自販機へ向かっていく。
 失敬な。君はそうやって理由をつけなきゃ遠慮して奢られたりしないだろうに。
 購入した3本を抱えて、すぐに戻ってきたなのはから僕の珈琲と、ついでにレイジングハートも受け取り、


 「それじゃ、中身の入ってる缶でいってみよーさね」


 なのはが自分用に買ったオレンジジュースを高々と空に投げる。
 我ながらとてもいい笑顔だったんじゃないかと思った事は秘密にしておこうかね。

 「ちょっとー!?」

 「缶を壊さないようにね、けれど空き缶と違って多少は重いから出力の調整に注意だね」

 いきなりすぎる展開に慌てながらも、すぐに集中して光弾を形成し射出。
 ………う〜ん………ホントに僕と違って才能というか素質あるね。この子。

 昨日までの空き缶を使った操作訓練で、100回を区切りにしていたけれど、
 こっちの中身入りの記録はどこまで伸びるんでしょうかね。

 『19……20……21………』

 まあ、40回超えたら合格点かね。
 なんて思っていたらあっさり超えたよ。

 『………42………43………』

 しかし──────────────

 「はいストップ」

 下から掬い上げるような軌道で缶へ疾走する光弾を、僕が形成した光弾で撃ち落とす。
 当然落下してくる缶を、なのはの代わりにキャッチ。………ちょっと痛いさね。

 「えと、どうだったかな?」

 「ん。合格さね。止めたのは単に─────────」

 掴んだ缶をなのはに渡すと、自然と理由も解ったらしい。

 「もう缶が耐えられなかったろうからね」

 「あはは………もうベコベコだ」

 「その缶の耐久限界だったんだろうね。次はちゃんとした的を用意するさね」


 ベコベコになったとはいえ、中身に問題があるわけでもなし。
 美味しそうに飲むなのはと雑談や近況報告しつつ、今日の訓練は終了。

 「じゃ、今日はここまでね。お疲れ様」

 時刻を確認するとなのはが来てから30分が経過していた。
 短いと思う無かれ。こちらにも都合と言うものがあるのだから。

 「そろそろ帰らないとはやてがキッチンに侵入してしまうからね」

 車椅子で調理が可能なように、いろいろな工夫はしてあるとはいえ、やはり心配だしね。
 もたれていた手摺から離れて空き缶を回収。そして投擲。………ナイスシュート。
 綺麗にゴミ箱へ収まった缶に大いに満足し、なのはに別れを告げて家路についた。


 †


 さて。場所は変わって八神家。
 シャワーで汗をすっぱり流して愛用の作務衣に着替える。……今日は藍色のにしようかね。
 半年前から家族が4人……で、いいのかね? ザフィーラって人型が本来の姿なんだっけ?

 まあ、ともかく増えたわけで。

 そうなると当然のように食事の量も増えるわけだね。イコール作業量も増加っと。
 言うほど手間が増える訳でもないんだけどね。何が言いたいのかと言えば……

 「剣は握れても包丁は握れないってね、それなんてハラペコ騎士王?」

 「いや意味が解らないのですが…………」

 ハハハ解らなくていいんさね。解られると逆に嫌。
 大体にして共通項は“ニート”と“騎士”ぐらいしかないんだけどね。

 「手伝おうって気持ちは嬉しいんだけどね、シグナム?
  そう後ろでうろうろされると落ち着かないし危ないさね」

 器に千切りにしたキャベツを敷いて、その上にネギとじゃこと胡麻を。
 ドレッシングは……酢があれば簡単に作れるし適当に仕上げますかね。

 「は、はい…………やはり料理も出来ぬと言うのは女として問題なのでは……?」

 「それじゃあサラダをテーブルに運んでくれるかね?」

 「はい!」

 …………いやー働き者と言うにはベクトルが間違っているというか何と言うか…………
 あれも騎士らしいと言えるのかもしれないね、あの真面目さは。

 ヴィータがリクエストしてくる砂糖で甘くしたふんわりオムレツに取り掛かりつつ無駄思考。
 甘いオムレツって邪道じゃね? と言うか卵焼き? とか思いながら何となーく言葉がこぼれた。

 「別に女だからって料理ができなきゃ駄目って事はないと思うけどねー?」

 1つ目を手早くスプーンで丸めて、さくさく作っていこう。
 どーでもいいけど箸を使って丸められないとか言う人はスプーンを利用してみるといいね。
 確かに箸は優れた道具だとは思うけどね。難易度に応じて道具を変えるのは人の知恵さね。

 「弓弦にいはトースト1枚でええか?」

 「うん。あ、ザフィーラに新聞とってくるように言ってきてくれないか。はやて」

 あいあーいとトースターにパンをセットしながら軽く返事をしてくれる我が妹分。
 うむ。今日も素直なはやてです。お願いだからそのままの君でいてくださいね。
 少年時代に世話したリーゼさん達のイメージ(別名トラウマ)が強いのか大人の女性は苦手さね。
 特にロッテさんの不精ぶりは異常だよね。


 『ロッテさん。下着は別けて籠に入れてって言ったよね?』

 『欲しいのか少年〜(ニヤニヤ)』

 『ロッテさん。テレビをつけっ放しにしないでね?』

 『あいあーい』

 『ろろろロッテさん今は僕が入浴中なのですががががががgggg』

 『そう遠慮するな〜♪ (ちらり)まだまだ子供だな弓弦ー!』




 べきっ 菜箸(100円)1膳ご臨終。


 「ど、どうしたん? 弓弦にい………?」

 「セクハラは駄目だ。セクハラは駄目だよはやて」

 「そんなんせえへんもん」

 10年後には揉み魔などのありがたくない称号を貰っているのだが、知る者はいない。



 「「「「「いただきます」」」」」

 深夜のお勤めで寝不足気味のヴィータとシャマルが加わって朝食開始。
 しかし深夜のお勤めとか言うと無駄に淫靡というか卑猥な薫りがするね。

 ……段々と駄目人間に近づいてないかね僕?

 バタートーストを齧る。僕の方向性は無視する事にした。

 「弓弦は、今日も仕事ですか?」

 「うーん……仕事半分。用事半分さね。無限書庫で未整理区画を系統づけて整理するって話が
  持ち上がってきててねー午後はその打ち合わせ。ついでに友達の裁判の話を聞きにね」

 「友達って、私達が来る前にあった事件の子の事ですよね?」

 「そうフェイト・テスタロッサ。まあ裁判と言っても勝利確定だけどね」

 クロノもリンディさんも甘いよねー。だから好きなんだけどね、あの親子。
 保護監察処分なんて顧問や担当次第とはいえ、殆ど形式だけだしね。万年人員不足だもんね管理局。
 多分顧問官はクロノ繋がりで養父さんになるんだろーねー

 手早くサラダもトーストもオムレツも食べ終えのんびりホットミルクを飲む。
 小柄な体格が原因なのか結果なのかは知らないけど、僕は小食な部類で食事時間は短い。

 「裁判が終わったら、私にも紹介してな?」

 「あー……うん。すぐには無理だけど、いつか必ずね」


 さて。今日もコソコソ頑張るさね。
 …………と言いたいけど、徹夜はキツイし出勤まで寝るかね。



 †


 弓弦が本局へ行くまで部屋で眠ると言って下がったあと、はやて達はリビングで談笑していた。
 三人よれば姦しいというのは本当で、彼女らにも適用されるらしい。

 ザフィーラに背を預けて座るはやてに、その横でうとうと眠そうなのがヴィータ。
 新聞を読んで時折微笑したり眉を寄せたりしているのがシグナム。シャマルは

 「よいしょっと」

 洗濯物を抱えてリビングへ戻ってきた。
 回復と補助が本領とはいえ家事まで担当するとは製作者の意図を尋ねたい。
 もっとも少し前からシグナムも家事に参加しているのだけれど。

 そんないつもと同じような風景に、差異が生じた。

 『──────────────』

 「あら? どうしたの闇の書?」

 1次覚醒してから、こうして時折はやての元へ現れる闇の書だったが、今日は少し様子が違う。
 はやてに擦り寄る様は、傍から見ていて犬や猫の類に通じるものがあるのだが…………
 今日のそれは何やら怯えているというか、助けを求めているというか。

 『主に助けを求めるとは卑怯だと判断します、闇の書』

 はい。その原因が現れました。
 いや怒られる原因を作ったのは闇の書であり、現れたソレに非は一切ないのだが。

 闇の書に続いて現れたのは、同じ書物型で分類はインテリジェントデバイス。
 ■■の■■書の後継機として作られたロストロギア。装飾の十字は無く、色も深緑。
 名を森羅万象目録。通称インデックスと呼ばれる弓弦のもう1人の相棒だ。

 「インデックス? 闇の書がなにかしたん?」

 胸に抱いた闇の書の震えを感じながら尋ねるはやてだが、闇の書に非があると素で認めている。
 それは他の面々も同じで『今度は何やったんだ』と視線が告げていた。
 日頃の行いとはかくも大事なものなのである。主に信頼とかで。

 インデックスは表紙を僅かに上に向けた。
 何故か腰に手を当てて胸を張っているようなイメージが浮かぶ。本人もそのつもりなのかもしれない。

 『私の記憶野に侵入。記録された情報の無許可閲覧と複製だと断定します』

 『(ガクガクブルブル)』

 「もう闇の書あかんやんかー」

 助けを求めた主に叱られて、少し沈んでいるのだが如何にもおかしい。
 いや闇の書がおかしいのではなく、インデックスがデータ云々と言った時に反応した奴がいたのだ。

 「ま、まあ闇の書には私から言っておくからそのあたりで───────────」

 『因みに持ち出そうとしたデータは、私が記録した我が主の子供時代の画像データなのですが?』


 びくっ


 反応する2人。見逃さぬ1冊。

 『心拍数・脈拍の上昇。理由の説明を要求』

 今度はそちらへにじり寄る緑色のアクマ。恐ろしく怖い。
 だが、急にインデックスからの怒気が霧散する。
 やれやれと表現したいのか、身体を横に振って、今度はテレビの上に移動していった。

 『映像記録の複製は許可できません。ですが閲覧ならば問題はないと判断します』

 そういうとテレビの電源をいれて……弓弦や彼の故郷、それにグレアム家の風景まで表示していく。

 『我が主ならば、家族に己の過去をある程度ならば閲覧を許可するであろうと。
  それこそが、我が主であると私は判断します。故に、どうぞ御堪能を』

 そうして、突如開幕した弓弦の『見せますスペシャル』な鑑賞会。
 写真や動画を見て楽しむはやて達と、解説するインデックス。
 眠そうだったヴィータは覚醒したとばかりに目を輝かせているし、シグナムの頬が桜色に染まっているのは
 見間違いだとしておこう。それが世界の為になると信じてる。








 「…………フェイルノート…………遮音。お願いね」

 『了解ですボス』

 恥ずかしくて真っ赤になった顔を隠すように布団に潜り込む青年1人。哀れなり。


 †




 時は流れる。

 いつだって何処だって。

 始まりは11年前の事件。

 1人の男が犠牲となり終わった事件。

 無念と悲しみを生み出した事件。

 それは幾人の人生を歪めてしまった事件。


 時は移ろい流れ行く。


 無念を抱いた男は執念を燃やし。

 悲しみを抱いた親子は涙を捧げて。


 そして巻き込まれる1人の少年。

 原因は遠くにありて結果を知らず。

 残されたのは全てを失った少年だけ。

 家族を。

 友人を。

 記憶を。

 感情を。

 残ったのは命。

 そして少年の命を護り少年の家族を殺した従僕。


 ──────────どうして誰もいないの?


 空ろな心は問いかける。


 ──────────どうしてこんなに静かなの?


 虚ろな瞳に映るのは鮮やかな赤。朱。紅。


 ──────────どうして僕は生きてるの?


 誰に罪を問えばいいのか。

 何が罪なのかすら解らぬ。

 それこそが咎だと責めるのなら、世界に慈悲などありはしない。


 ──────────どうして?


 からっぽになった少年に、男は何を見たのか。

 小さなその手をとったのは罪悪感からか。


 ──────────僕が悪いの?


 消えた日常。

 帰らぬ平穏。


 ──────────答えてよ


 生まれたのは憎しみか。

 それを燃料にして少年の胸に灯る炎は何色だったのか。


 ──────────誰か答えてよ!


 人として再起動した少年が、祝福を運ぶ暖かな風の担い手に出会うのは、まだ先の話。



 †

押してもらえると大変に嬉しいです。