〜手紙。慎二と紅茶と珈琲〜
†
身体中の筋肉が断裂しまっくてて非常に痛いのだが、この非情な現実は俺に更なる労働をしいる。
「しーろぉ! お姉ちゃんお腹すいたよう!」
それは当然、この声の主が与えたもうた手作り自称天罰なのだが。
もうフライパンどころか包丁を握る事すら苦痛なのに遠慮も容赦もありゃしねえ。
「…………ま、自業自得なわけだが」
今夜から桜は此処にはこない。
それはきっと、恐らくは慎二が負けを認めるまで。
……………まあ俺としても、慎二が他の誰かに殺されてほしくはない。
だから早急に慎二を倒す。慎二に敗北を認めさせるしかないか。
『今夜0時。あの公園で待ってるよ』
そう書かれた慎二からの手紙を思い出す。
あの公園とは、俺達にとってその単語が示す場所は1つしかない。
前回の、第4次聖杯戦争の決着の場所。●●士郎が死に、そして救われた場所だ。
確かにあそこなら邪魔は入いらねえ。戦うにはいい場所だ。
ちとライダーのサーヴァントには有利な場所かもしれんけど。
あのライダーの所有する宝具までは把握しきれてねえ。
1つは間違いなく学校に展開されている他者封印・鮮血神殿だろう。
そしてその対となる自己封印・暗黒神殿。
だが、ライダーがあのメデューサなら石化の魔眼もある。
それも宝具か?っていうかそもそも宝具って基本的にはそう何個も持てるもんじゃねえんじゃなかったっけ?
後は…………メデューサの血から天馬が産まれてたな。
クラスがライダーって事は、その天馬がシンボルか?
あと涎が毒で、それから生えた草がトリカブトってそりゃ冥府の番犬か。
『………不明な点も多いけど………能力的にはセイバーの勝率が高いか』
『はい。シロウの見た彼女の能力から言って、余程強力な宝具を所有していなければまず敗北はありえません』
ラインを通じて返ってきた心強い言葉に安堵しつつ、軋む腕を動かして調理を続ける。
『単純に剣と釘で戦ったなら、まずセイバーが負ける事はない』
『そうですね。無傷………とはいかないかもしれませんが、必ず勝利してみせましょう』
『しかもセイバーの宝具はあの聖剣だ。宝具勝負は蓋を開けなきゃ解らんが、こっちもデカイ』
『ではシロウ。ライダーのマスターの挑戦を受けるのですね?』
『あいつが誰かに殺される前に保護はしたいな。慎二を殺す奴に、心当たりもある事だし』
……………あのギルガメッシュ。あいつが何を考えてキャスターを殺したのか。
それはきっと、あいつも聖杯を欲しているからだ。キャスターを殺して慎二を殺さない理由などない。
俺が殺されていないのは、単に俺とあいつの相性が悪いってだけの理由からだろう。
俺とセイバー、さらに凛とアーチャーを相手にしてはいくらあの英雄王でも分が悪い。
『では食事を終えて、タイガが帰宅した後に──────────────』
『だが待ってくれセイバー』
『? なんでしょうか?』
あー……………すっかりやる気でいるセイバーには非常に悪いとは思うのだが……………
………なのだが………どうしよう。今夜はもう動けそうにないんですけど……………
ついに握るだけの握力すら失って、俺の手から包丁がまな板の上に落ちた。
†
──────────────寒風吹き荒ぶ公園。敷地内の何処かのベンチ。
「……………寒い……………」
「慎二。幾らなんでも早く来すぎだと思いますが?」
すっかり冷えた手をポケットに捻じ込んで、震えながら悪態を吐く慎二。
「………糞。桜の奴………学校に結界を張ってから今日まで終始笑顔ってどんな嫌がらせだよ………」
その笑顔に押されて、堪らず家から此処に逃げてきてしまったのだ。
だがよく考えなくても近場の喫茶店とかで時間を潰せばよかったと今更ながら後悔していた。
「糞! 衛宮の奴、早く来ないかな……………」
「時間まで4時間以上ありますが」
「そうだよ! まだ4時間もあるんだってお前何をしてんだよ!!」
実体化して、慎二の座るベンチに並ぶように座って読書を始めるライダー。
その眼を覆う眼帯は外されて、代わりに今は眼鏡をしていた。
「まだ時間があるので読書ですが?」
「いやオカシイだろ!? つかその眼鏡と本は何処にしまってた!?」
「慎二の鞄の中です」
「何を勝手に荷物持たせてるんだよこの英霊!? つかその格好なんだよ! 見てて寒いじゃないか!」
実体化したライダーはやはりあのレザーでボディコンシャスな服だった。
そのすらりと長く美しい足は綺麗だなと思いつつ、やはりこんな寒空の下で読書を楽しむ格好ではない。
「……………糞。遠坂だったら『心の贅肉』って言うんだろうな……………」
そう言うと、来ていたコートを脱いでライダーの膝にかけてやる。
本当は肩からかけてやりたいところではあるのだが、如何せん身長差があって彼女には少し小さい。
「急に走りたくなったんだ。お前はそれを預かってろ、いいな!」
「ですが慎二、単独行動は危険です。私が──────────────」
「いいからお前は座って本でも読んで時間を潰してろ。僕だって馬鹿じゃない、すぐに戻る」
それだけ告げて、震える身体で走り出す慎二。
だがしかし、この時のライダーの心の中では1つの天秤が現れていた。
秤に乗っているのは『慎二の気遣い』と『桜の命令』の2つ。
それはしばし拮抗して揺れていたが……………
『兄さんをお願いね、ライダー』
真のマスターである少女の言葉が脳内で再生された瞬間に一気に勝負がついた。
コートと本と眼鏡を置いて霊体化し、慎二から僅かに離れた位置で彼を追い駆ける。
所詮は人の脚力。英霊たる、しかもライダーの脚なら瞬く間に追いついた。
「……………自販機は………こっちか…………」
移動した先で自販機から暖かい紅茶と珈琲を数本購入し、それを抱えて来た道を戻る。
不満そうに眉間に皺を寄せているが、決してそれだけではなかった。
慎二がベンチを視認する距離に来るまでに、急いで戻って実体化してコートを着て本を読んでいた風に装う。
「お帰りなさい慎二。もういいのですか?」
「ああ。満足した」
眼を逸らしたまま返事をして、慎二は抱えた缶の幾つかをライダーに渡す。
「飲んだ事がないやつがあったからな、試しに買ってみたんだけど、僕一人じゃ飲みきれない。お前にやるよ」
「そうですか。ありがとうございます」
ライダーは受け取った数本から珈琲を手に持って、残りはコートのポケットにしまう。
そして座ろうとする慎二の手を引いて
「慎二が風邪を引いてしまっては、私も困ります」
そう言って、自分の膝の上に座らせて後ろから抱きかかえた。
「こうしていれば、暖かいと思うのですが」
羞恥と混乱で思考は千千に乱れていたが、それでも何か言おうと慎二の口は開きかけたが、結局閉じる事になった。
「…………まあ、確かに暖かいけど」
冷徹で鮮血めいた気配すら感じる彼女の、希少な可愛らしい笑顔を前に、文句など言えるはずもなかった。
「……………暖かい……………な」
『〜♪〜〜♪』
「ん? 電話か……………衛宮からじゃん」
「何? サボったのがバレて藤村に説教?」
「筋肉痛で動けそうにないだと!?」
「頼むから明日にしてくれって、おい! 待て待て! 切るな!」
『ぶつっ』
「……………え」
「衛宮の馬鹿ー!!」
少年の魂の叫びが、夜の公園に響くも、それは誰にも届く事はなかった。
†
あとがきっぽい何かっぽい言い訳。
羽山:「はーい更新しましたよーわーわーどんどんぱふぱふー」
律:「前回の最後に言ってた1週間は超過したけどね」
アンリ:「そのくせめちゃ短いじゃん。またギャグに走ったし」
羽山:「いやーオルフェウスとか格好良いよね!」
2人:『……………ペルソナ3やってたのか?』
羽山:「うん。あれすごくいい。音楽もペルソナも、何より主人公×美鶴サイコー!」
アンリ:「あ! てめ、そっちの短編書いてやがったな!?」
律:「うわ、しかも結構本数あるぞ? ………3話だと!?」
羽山:「いや、実はEVAの投稿作も書いてた。最近書いてなかったから大変だったぞ」
律:「ああ、某○○くんさんの書斎のやつか。それは許す」
アンリ:「って、それすら未完成じゃねえか」
羽山:「つーかさ、慎二が巧く書けん。でも慎二は可愛いと思うんだ?」
律:「……………もうお前に真面目な話は期待しない」
アンリ:「だよなー」
羽山:「作者の鉄槌」
律:「……………ただの拳骨じゃん」
アンリ:「しかも痛くないし」
羽山:「自称『世界最弱の駄犬』だぞ。それが全力だ」
律:「そして全力で書いたSSもこれが限界………と」
羽山:「……………スミマセン」
アンリ:「なあ。これいつ完結すんのよ? まだ大分残ってるけど」
羽山:「知らん!」
2人:『断言っすか』
羽山:「いやだってさ? 正直予定より量が増えちゃって…………」
律:「執筆は計画的に」
アンリ:「ア○フルからのお知らせでした」
(2007/06/25)
もりもり元気が湧いてくる!