Fate「無限の世界」Act.16

〜慎二の意思〜





 ◆


 吐き気を催す汚濁の中で、彼らは死にながら生きていた。
 魂を鑢にかけて削り続けて、生きられないように殺されていた。

 自分を維持するために用意された生贄達を見下ろして、黄金の王は目を細めた。
 もしかしたら、そんなものを喰らう自分に対し、僅かに嫌悪を感じたのかもしれない。

 無垢な少年の姿で、彼は絶対の王者としての威容を持っていた。
 高き処より民を、臣下を、敵を、そして神々すらも睥睨しているようですらあった。
 言峰教会。地下聖堂に、黄金の王は君臨していた。

 「……………悪趣味だなあ……………」

 嫌悪と侮蔑が混じりあい、そして微量な憐憫が含まれた言葉。
 それを踏み潰すように足音が、さして広くも無いこの場所に反響した。

 「どういうつもりだ。ギルガメッシュ。」

 彼が眩い君臨者であるならば、足音の主は狂気の殉教者か。
 普段は感情など微塵も含有されてなどいない彼の声には、僅かな疑問があった。

 「私は待機を命じていたはずだ。それを無視し、更にはキャスターとそのマスターを殺したのは何故だ。」

 足音は乱れずに階段を降り終えて、そして消えた。
 聖堂の中心と階段の終着にて彼らは対峙して睨みあう。

 「ああ、そうだったんですか。すいませんねマスター。『我』から僕は何も聞いてなかったので。」

 もちろん。そんな筈がない。
 彼の容姿は変化しているが、その魂に記された情報まで変化してしまうわけではないのだから。

 ギルガメッシュの明ら様な嘘にも、言峰は特に動揺はなかった。
 彼の目的がなんなのか、言峰はある程度は推測してた。

 故に、確信した。
 彼は……………ギルガメッシュは己の目的の為に動き出したのだと。

 「──────────────」

 そうなってしまっては、もはや言峰にギルガメッシュを完全に律する手段など1つしかない。
 いや……………令呪をもってしても制御しきれるだろうか。
 彼はこの世全ての悪という呪いを、文字通り飲み干して正気を保った英雄王。
 そして令呪とて、言ってしまえばたかが魔術●●●●●にすぎない。
 彼の所有する数多の神秘の中には、令呪すら無効化するだけのものがあるかもしれない。いや、確実にあるだろう。

 「そうか。」

 言峰はそれだけ告げて沈黙する。思考に埋没しているのかもしれない。

 対するギルガメッシュは神父を眺めて、神父の能力を再認識していた。
 自分が完全に彼の駒とはならぬと理解していながら、彼ならば彼の望みへ至る脚本へ修正できる。
 やはり自分にとって、彼は厄介な存在だ。

 (まあ、それでも支障はない……………)

 そう結論付けて、やおら足元に転がしてあった奇形の筒を手にとるギルガメッシュ。
 言峰の前まで歩いて近づいたときには、もうその顔は子供の笑顔に戻っていた。

 「これ、あげます。ランサーさんの回収に使ってしまったでしょう?」

 そう言って言峰に渡された奇形の筒。40センチ程の長さに幅は14センチ程だろうか。
 言峰は掌に伝わる重心の奇妙さから中身は液体だと知る。が、残念ながら緑の外殻のせいで中身は見えない。

 「これは?」

 「プレゼントです。」


 ◆


 「殺す気かよセイバーの奴……………」

 すっかり傷は癒えてくれたが、何故か鈍い幻痛。
 目を閉じてこめかみを親指で揉んで、しばらくそうしていると大分楽になった。

 寒風吹き荒ぶ冬の屋上に、しかも授業中に好き好んで来る奴は俺達の他にいるはずもない。
 遠慮なく大の字に寝転がって午後の昼寝を満喫する事にしよう。
 聖杯戦争なんて糞みてえな糞遊戯なんぞ、今は遥か遠い異世界の話だ。

 「……………だって言うのに、こんな結界を見ちまうとなあ……………」

 学校を覆う鮮血神殿を思うとリラックスなんぞしてられるわけもねえ。
 嫌がらせにケツの下敷きにしてやる。ケケケ。

 「妨害された時点で、結界の主も学校にマスターが存在している事実に行き着く」

 もしかしたら既に知っていたかもしれないが、だとしてもそれは冬木の管理者の遠坂凛だろう。
 自慢じゃねえが普通の魔術師の眼中に入るほど俺の魔力は外へ向かってねえんだよ。
 よっぽど探査系の魔術に傾倒した奴じゃなきゃ、まず発見される事はねえ。魔力殺しも幾つか持ってるしな。

 「……けど、これがもし──────────────」



 「僕が張った結界だったら?」



 少し離れた場所で一緒にサボってる慎二が、遮るようにそう告げた。

 「ああ。もし慎二がこの結界を張らせたなら、俺は止めるぞ」

 「ふん。衛宮は僕がやったと思ってるんだ?」

 いかにも心外だと言う様に肩を竦めている。
 俺はそんな慎二を半眼で睨みつつ彼の後ろに立つ女性を●●●●●●●●●●顎で指す。

 「あのな。宝具なんて解析すりゃ所有者くらい解るんだよ。例えばそちらのメデューサさんとかな」

 「へえ……………流石は贋作者フェイカーだ」

 くすくす笑う慎二だが、僅かに余裕が消える。
 流石に今は戦う気が無いのか自然体だが──────────────

 「つか慎二。妹のサーヴァントをパクるなよ」

 ビキッっと亀裂が入った。わお。メデューサ……いやライダーの魔眼でも見たわけ?石化してね?

 「大体さぁ、お前令呪以前の問題に魔術師じゃねえのに聖杯戦争に参戦すんなよ」

 「な……舐めるなよ、衛宮! 僕は──────────────」


 「死ぬぞ?」


 刹那の遅滞も無く袖に仕込んだ銃を眉間に突きつけられて、慎二が口を閉じた。

 「魔術師の戦いってのはそう言う事だ●●●●●●。殺して殺される糞足れた戦いだ」

 引き金を徐々に絞っていく。あと僅かに引かれれば撃鉄が雷管に叩きつけられ銃口から弾が吐き出される。
 そうすれば意外と遅い初速で運動を始めた弾丸は、それでも普通の人間の認識より速く皮膚に触れて掘削を始める。
 運動エネルギーを消費しつつ肉を抉り骨を砕いて脳へと到達し、破壊しながら後頭部より突き破る。
 血と肉片と脳漿を派手に撒き散らかした人間は生きてはいられない。場合にもよるが大抵は即死するだろう。

 「……………警告だ、慎二。聖杯戦争から降りろ。俺はお前を殺したくねえし殺させたくねえ」


 「ぼ、くは……………それでも、降りる気はない。衛宮の警告は嬉しいけど、僕は間桐の魔術師として戦う!」


 怯えを噛み殺して、挑むように真っ直ぐに俺の目を捉えて訴えてくる。
 間桐の魔術師を自称した以上、もう慎二も俺の敵だ。退くつもりもないし負けるつもりもない。

 「……つっても、殺すつもりもねえんだっての………だからライダーさん? その釘、首からどけてくれねえ?」

 「貴方がマスターから銃をどければ、私も下りましょう」

 「ああこれね。これさ……………」


 バンッ!!


 「いったああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 「訓練用のゴム弾なんだよね」

 銃の弾装を開放して、熱くなった空薬莢を抜く。今度は実弾を込めてまた袖に仕舞っておく。
 ゴム弾が当たった眉間を押さえてのた打ち回る慎二を眺めながら後ろのライダーに尋ねる。

 「あんたさ、慎二じゃろくに魔力を供給できねえだろ? 大丈夫なわけ?」

 「今は慎二の心配をしてあげたほうが良いのではないですか? ………すごく痛そうですが?」

 指摘されて、ちょっと冷や汗が流れてきた。
 やべ。骨がイッたか?それとも肉が抉れたか?普通に痛いよなゴム弾ってさ。悶絶するくらいって慎二見りゃ解るか。

 「おーい慎二。大丈夫かー?」

 「大丈夫なわけないだろ! 糞っ! 本気で痛いぞそれ!」

 喋れる程度には回復したらしく、涙目で抗議してくる。
 眉間から軽く血が流れてるのでポケットから軟膏を取り出して渡してやる。

 「これ使えよ。傷とかあっちゅーまに治るぞ」

 「ったく、本気で撃つ奴がいってええええええええええ!!」

 今度は軟膏が傷に沁みたらしい。そりゃ沁みるさ。良薬は口に苦いし傷には沁みるものなのだ。うむ。

 「ま、ほっとこ」

 「……………いいんですか? 慎二は本気で泣いているようですが……………?」

 「いーのいーの。俺の昼寝の邪魔をした報復だ。猛省してくれ」


 「ええええみぃいいいいやああああああああああ!!!!」


 慎二の悲鳴は俺の遮音結界に阻まれて、範囲内の俺の耳にすら届かなかった。




 「そうだ、これ桜から預かってたやつ」

 「ありがとうございます。あ、これは慎二が渡そうとしていた手紙です」



 †


 授業が終わって、私は弓道部へ顔を出していた。
 新都で頻発しているガス漏れ事故のせいで下校時刻が速まったとはいえ、部活に汗を流す者も当然いる。
 特に弓道部にはそんな奴の心当たりが3人もいる。

 「お? 遠坂じゃん。何してんのさ?」

 心当たりその1。弓道部の部長をしている綾子だ。
 凛々しい袴姿で射場の外で暇そうに中を眺めていた。

 「私はいつも通り見学よ。それより、なんで綾子も外にいるのよ?」

 「あー……………それがなあ……………」


 「衛宮君!! へばってないで腕立て!!」


 と、中から藤村先生の怒声が響いてきた。
 思わず首を竦めてしまう威力は相変わらず健在らしいって……………

 『なんであんたも怖がってるのよ……………?』

 『な、なんでもない。気にするな』

 顔面蒼白で震えてるんじゃないのかって程に怪しいのだが、綾子の手前で実体化させる訳にもいかない。
 不審に思いながらも射場を覗くと、何故か汗まみれになって腕立てをしてる士郎が見えた。

 「……………なにあれ?」

 「や、衛宮の奴藤村先生の授業をサボったらしくてさ。顔見たた瞬間に捕まってた」

 ……………あの馬鹿弟子は……………何をやってるんだか。
 綾子も隣でそれを眺めて苦笑している。って何で苦笑なのよ。呆れなさいよ。

 「いや私も最初は呆れて見てたんだよ。けど腕立てが300回を超えた時点で哀れになってきてさ」

 「300回!?」

 「その前には腹筋とスクワットを300回づつやらされてたよ」

 ば、化け物かあいつは……………
 私も身体は鍛えてるほうだけど、そんな回数を魔術なしでやれるほど人間辞めてないわよ。
 ぱっと見だけど魔術を使ってる様子は無いし……………

 「……………恐怖って時に肉体を凌駕するのね……………」

 「そうだなあ……………あ、倒れた」

 それでも気合が足りないとか言って藤村先生が竹刀を振り回してるってあの人は海兵隊出身者か。
 きっとハー○マンとかそんな名前の鬼教官も裸足で逃げ出すわよ。

 溜息を吐き出しながら、射場へ向かう。

 「お? どうした遠坂」

 「流石にもう限界でしょ。身体が壊れちゃう前に止めるのよ」

 「ははぁ……………ま、それもそうだな。私も手伝いますかね」

 やけに嬉しそうに言う綾子を見てしまい、その視線をどう受け取ったのか綾子の奴。


 「ふふん。衛宮を狙ってるのは桜と遠坂だけじゃないんだ」


 なんて、本当に楽しそうに、言ってくれた。


 †



 あとがき。という名の何か。  羽山:「あー……………さてと」  律:「なあ、移転して最初の更新がこれか?」  アンリ:「シリアスぶってた空気は完全に遥か彼方って感じだな」  羽山:「うっさい。私はギャグが好きなんですー」  アンリ:「まあいいけどよ。なに、綾子も士郎狙ってるわけ?」  律:「それだけじゃないぞアンリ。なんと○○さんも絡ませようとしていたぞこいつ」  羽山:「そこーネタバレすんなー?いいじゃん。どうせヒロインは投票で凛に決まってるんだし」  律:「それで没になった他のヒロインは先んじて裏用の短編書いてるくせに」  アンリ:「マジで? おいさっさとエロ書けよー俺を出せよー贅沢言わなずにカレンが相手でいいからさー」  羽山:「黙れ野犬が。お前の出番など本編の後半と後書き以外にゃ存在しねー」  律:「羽山の出番なんか後書きしかないだろうに」  羽山:「ギャー!そういう事言うなよ!アンリ以下とか言うなよー!!」  アンリ:「………あれ?何気にひでえ事言われてね俺?」  羽山:「実は何気に出番の予定はあるぞ、お前。予定だけど」  律:「それより次はいつ頃に書き上がるんだ。お前から貰わないと掲載も出来んよ?」  羽山:「うむ。可能な限り早く。多分1週間後くらいじゃね?」  2人:「遊ぶ暇があるなら書けや」                             2007/06/15[いい加減にしないと怒られるかなとか心配しつつ]
もりもり元気が湧いてくる!