Fate「無限の世界」Act.15
〜今日も朝日は………朝日は?〜
†
それは、正しく地獄と呼ぶべき場所であった。
燃える家屋、大地、空、そして人。
そんな地獄を歩く少年が1人。
酷い火傷を胸に負って、それでも歩いていた。
……………もしかしたら少年自身、自分が歩いている事に気付いていないのかもしれない。
虚ろな目は何も捉える事無く。ただ前を向いていた。
けれど、やがて少年も倒れた。
そして──────────────救われた。
場面が変わる。
地獄のような戦場だった。
天国のような平穏だった。
男は一人戦場に立ち、平穏へ帰る。
殺した罪を背負い。
助けた幸いを噛み締め。
愛おしい故郷へ帰る。
そんな事を何度続けたのか。
男は次第に磨耗していった。
燃えるような赤髪は漂白され、鍛えられた身体は傷痕だらけ。
疲れて。
疲れて。
疲れ果てて。
──────────────そこに行き着いた。
広く。酷く。荒涼とした大地。
突き立ち並ぶ剣達は男が殺してきた者の墓標か。
遮るもののない蒼穹は救った者達の未来か。
大地は死に、空には希望が。
そんな矛盾世界で、男は人生を騙っていた。
『幸せだった』と。
『嬉しかった』と。
そうして男は、ひどく残念そうに、最後に一言だけ呟いて、地獄から去った。
†
………………………………………目が覚める。
見慣れぬ天井が視界に入り、そこが自分に与えられた部屋だと認識した。
「……………今の……………夢は……………」
上体を起こして、先程の夢を考える。
サーヴァントは夢を見ない・・・らしい。
未だに死者では無い我が身は、夢見も可能だろうが、今の夢は明らかに私の内から生まれたものではない。
「稀にマスターとサーヴァントの記憶が流入するとは聞きますが……………」
あれは彼の記憶……………過去だ。
……………正直。彼の普段の態度からはかけ離れていて素直に納得できないのだが。
それに夢で見た彼の髪は色が落ちて白くなっていたし、先日の戦闘の後、彼を着替えさせた時には、
傷痕も無かったはずだ。そもそも“鞘”を利用しているのなら傷痕など……………
本来の所有者ではない彼では不老不死は得られないだろうが、それでも……………
は、と。自分が何を見たのか、ようやく気付いた。
「人の過去に土足で踏み入るような真似を……………」
してしまった。
不可抗力とはいえ、後ろめたさはある。
「……………けれど」
夢が終わる、その最後に彼が呟いた一言はきっと──────────────
†
身体がだるい。もう非常にだるい。布団から出るのも億劫なほどにだるい。
全身の細胞が賃上げ交渉でストライキでもしてるのかって感じでダルイ。
そういや昔、何処ぞの夢魔に魔力を奪われたときもこんな感じだったなあ。
いつか見た屋敷に住む黒猫を思い出しながら、身体に活を入れて起き上がる。
未だ早朝。朝日が昇る僅か前。そんな時間に起きるようになってもう何年目だろうか。
「……………今日はちゃんと鍛錬すっか」
最近の俺は少し忙しさを言い訳にサボっていたと思う。
なので手早く身支度を整えて道場へ向かう。
……………その前に炊飯器をセットすることも忘れない。
さて今日もビシバシいこうかと道場に来たのだが、
「お? 早起きだなセイバー」
その隅には先客が、静かに座していた。
「おはようございます。シロウ」
彼女は動じる事無くこちらに目を向けて、いつもと同じ凛とした表情で挨拶を返してくれる。
のだが、なんだか微妙に元気がないように見える。空腹か?
「なわけねえか」
「は?」
ナンデモナイディスヨ?と返事しながら、さっさと柔軟を済ませる。
「うっし。今日も鍛錬の相手をしてくれるか? セイバー」
「ええ。お相手しましょう」
微かに笑いながら、セイバーも立ち上がってこちらに近寄ってくる。
後頭部にガツンと撃鉄を叩きつける。
回路が神経と裏返る。人たる身体はそれを嫌ってじくじくと苦痛を訴えてくる。
魔術使いとして生きるなら、それは捨てようも無い聖痣だ。
……………さっさと遮音結界を展開する。
「刃を潰した武器しか投影しねえけど、OK?」
「はい。先日と同じ手は通じないと思ってください」
……………まだ根に持ってるのかよ……………
実は負けず嫌いだろ、セイバー。
無駄思考しつつも、両手に干将・莫耶を投影する。
俺の投影可能な刀剣類のなかでも、特にその精度が高い。
まあ、それだけ投影してるって事でもあるんだろうが……………
ついでに回路にも図面を装填し始め、そのどれもが刃を潰したものだ。
俺程度ではセイバーに勝つなど無理であろうが、それでも万が一を心配してしまう。
適当に距離をとって対峙する。
セイバーの手には風王結界に納められた聖剣を下段に構え、俺も低く夫婦剣を構えた。
「──────────────」
先に動いたのはセイバーだ。
一瞬前にいた場所から疾風めいた速度で間を詰めて切り上げてくる。
それをスウェーで避わして干将を胴に叩き込む。
しかしそれは
「ふっ!」
充分な見切りでかわされた。間髪いれずに莫耶も振るうが剣で受けられる。
「……………ははっ!!」
駄目だコリャ。
10を超えて打ち合っても、まるで勝てる気がしねえ。
俺に出来る事など必死にセイバーの剣を防ぎ、逃れ、身を守る事程度だ。
(つっても、それじゃいつまでも終わらねえし……………)
ざっ、と大きく間合いを広げる。
手にしていた夫婦剣を捨てて新たに歪な双剣を投影。
その使い手から戦闘情報を読み込む。
──────────────ドクン……………
血流が加速していく錯覚。
自分だけ世界の時から外れてしまったような、ありえない体感。
「っし!」
振るう。
悪魔の牙を模した双剣を後など考えずに振るい続ける。
5合で足りぬのなら10合。
「ぜっ、ぜっ、ぜっ、ぜっ!!」
酸素が足りない。筋繊維が無理な出力のせいで次々に断線していく。
それでも動きを止めない。届かないなら更に加速するまで。
10合でも足りぬ。ならば20合。
強化で能力が倍加した身体でも、もはや稼動限界など超えている。
暴走する思考を抑えるべき理性など捻じ切って、限界などとうに超えた身体を加速させていく。
そうして、ようやく掴んだ。
セイバーの剣が僅かに止まった瞬間を逃さず、武器殺しの双剣が牙を剥く!
その刀身に牙を突きたて圧し折ろうとして
「いや、無理だって」
あっさり正気に戻る。次の瞬間には俺の双剣はセイバーの魔力放出に耐えられずに砕かれてしまった。
「っちぃ! 投え──────────────」
「遅い!」
スッパ─────────ン!!とセイバーの剣が俺を捕らえ
──────────────グキャ!!!!
「……………あ」
セ、セイバー……………それ、竹刀じゃ……………ない……から……………
「シ、シロウ!! すみません!」
「うん。そりゃ峰打ちとは言えおもいっきりぶっ叩けば頭割れるって」
「ってシロウ! 私はそっちではありません!! しっかりしてください!!」
「よお切嗣。ごめん、俺……………切嗣の夢を守れなかったよ……………」
「き、気を確かに!! アーチャー! 来て下さいアーチャー!!」
「大丈夫だよセイバー」
「ああ、よかった! 意識が戻ったのですね!!」
「うん。今度の眠りは……………少し……………永く……………」
「人の台詞を流用している場合ですか!! ア、アーチャー!!」
チ──────────────ン。
「呼んだかセイバーって、なんでさ!!」
思わず素に戻って叫ぶ弓兵が慌てて治療したため、衛宮士郎は一命を取り留めた……………
†
あとがき。な対談。
羽山:ぶっちゃけさ、士郎は誰が好きなわけ?
士郎:みんな。
羽山:……………ミンナディスカ。
士郎:うん。みんな。
………………………………………あざーした。(士郎退場。そして律が登場。
律:ん?何を怒ってるんだ?
羽山:いやね。みんな大好きですよ?とかぬかす女の敵に毒電波を発信しているのだ。
律:むしろお前が毒だ。食われて来い。
羽山:さて。ちゅーわけで士郎君、大怪我をする!の巻。次は……………やっぱり未定。
律:いい加減に予定はちゃんと組めと……………
羽山:予定なんて飾りです! 現実にはそんなものあったって仕様も無い事も多いんです!!
律:そんなだから駄目なんだよ。君は。
2007/06/12:誰が死ぬんだろうかと考えつつ。
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もりもり元気が湧いてくる!