Fate「無限の世界」Act.10
〜刺し穿つ死棘の槍〜
◆
昼休み。うちの学校にゃ馬鹿に立派な学食があるもんだから、生徒の大半はそっちを利用する。
そんな訳で、俺達みたいに弁当を持参してランチを楽しむ古臭え連中は少数派だ。
しかもこの季節に屋上で食事となると更に少ない。と言うか他には誰もいやしねえよ。
・・・たまには学食もいいんだけどな。財布の中身と相談できれば。
いくら仕事で大金を得ようとも、凛に払う授業料という名の宝石で羽が生えたみたいに逃げていく。
ああまったく。金は天下の回り物とはよく言ったものだ。ははは、死ね。死んでしまえ。んな名言。
「衛宮よ。本当に貰ってもかまわんのか?」
「柳洞も細かいね。衛宮がやるってんなら遠慮せず貰っちゃえばいいのにさ。」
俺が脳内で金槌を振るっているのに夢中になっていると、一成と慎二が舌戦していた。
いや楽しそうだね。嘘だけど。これが楽しそうに見えるってんなら病院行け。脳の。
大き目の水筒からお茶を注いで、湯気の昇るそれを口に含む。途端に芳醇な薫りが広がって美味である。
「・・・衛宮君、お年寄りみたいよ?」
「・・・うるせえ・・・」
まったく。失礼な。爺むさいと言うならば俺なんかより余程似合う男が・・・
「うむ。やはり舌が痺れるほど熱い茶が良い。」
「・・・いや、むしろ若々しいのか?」
冬の冷えた風など気にもならぬ陽気のおかげで、屋上は意外と快適だ。
こっそりとフェンスに風除けの符が張ってあったりするのは俺だけの秘密。神秘の大安売りなのである。
ははは、魔術は秘匿するもの?うん。そうだね。でも便利なんだから見逃してくれい。
“フィンの一撃”とまで評されるガンドを突っ込みに使う師も居る事ですしね!?
つっても、なーんか違和感。なんか忘れているような、足りないような・・・?
「あれ?そういや桜はどうした?」
俺の言葉に、全員が俺を見て、そして絶句している。・・・Why?
「ちょっと士郎。あなた桜に屋上でご飯食べるって伝えてないの?」
皆を代表して凛が告げた。途端にどっと汗が流れて、背に氷塊が滑り落ちる。
「え?あれ?凛が伝えたんじゃねえの?」
「私は士郎が伝えると思ってたから。」
「僕も衛宮が伝えたと思ってた。」
「俺も間桐君には衛宮が伝えていると思っていたのだが。」
「・・・・・・あれ?これって俺が悪いのか・・・?」
『・・・・・・・・さあ?』
うわ。みんな俺に罪を放り投げやがったね。ってマジでヤバイ。
俺は慌てて立ち上がり走り出す。何故か言いようもなく嫌な予感がするのだ!具体的に言うと貞操とか!!
・・・って桜は何処にいるんだ?
◆
僅かに遡る事数分程度。
ある者は食堂へ、ある者は教室で、またある者は街へ昼食を求めて動き出した頃の事。
士郎達は屋上に集い食事をしようとしていた時だ。
「くすん・・・先輩達遅いなあ・・・」
一人弓道場でお茶を用意して座る日陰者がいた。
「あの、サクラ?他の人は屋上にいるようですが・・・?」
「あはは、ライダーったら。先輩がそんな意地悪をするはずないじゃないですか♪」
「いえあの・・・」
「もしそんな意地悪されちゃったら先輩を捕まえて・・・姉さんも一緒に・・・・・・ワカメ・・・」
「サクラ?聞いてますか、サクラ!?」
ライダーと呼ばれた紫の女性は、周囲に人がいない事を確認して実体化する。
そして桜の顔の前でひらひらと手を振ってみる。・・・反応無し。
「完全に逃避してしまってますね。」
「・・・ちゃんと気付いてます・・・」
嘘はいけない。単に現実復帰しただけであろうに。
溜息を吐いて弁当の蓋を開け始める桜。もう諦めたらしい。
士郎が作ったおかずの比率が高いのは秘密。ついでに量も秘密。乙女の秘密。
それらを静かに咀嚼しながら、桜は、
「それで、この結界を張ったのは兄さんの指示なんですか?」
まるで今日の天気は晴れですねと言うように、軽い口調で尋ねていた。
「はい。魔力が満ちるまで、あと数日は必要ですが──────────────」
「ライダーはそれでいいの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
桜の問いの意味は、ライダー自身が深く理解していた。
即ち、貴女が忌避している怪物としての自分のように、人を殺めてもよいのか?と。
口調はあくまで自然。だが、桜の手は硬く握られて視線は真っ直ぐにライダーを捉えて離さない。
「心配は無用ですサクラ。私は貴女の盾となり、敵を打倒すると誓った。」
「ありがとう、ライダー。・・・もう・・・兄さんも酷い事考えるんだから・・・」
あれで、慎二は丸くなったと桜は思う。昔は間桐の跡継ぎだとか、魔術師になれない自分の事で荒れていたのに。
その頃は八つ当たりのように暴力を振るったり・・・その・・・乱暴もされたけど。
2年前に先輩と喧嘩して、仲直りしてからは優しくなったと思う。
あの蟲蔵に落とされる事も無くなったし、暴力も乱暴もしなくなった。・・・謝ってもくれた。
『魔術が使えないからって、失敗作だなんて言わせない。』
それは開き直りに近い彼なりの決意だったのだろう。事実、彼は魔道の知識を貪る様に学んでいる。
間桐の、いやマキリの最後の当主として、その智を残す為の努力だ。
それはきっと、無駄に近い努力だろうけれど、それでも、彼が間違っていないと信じている。
まあ、こんな風に魔術師然としてあろうとする姿勢は、時に曲がった方向へ進んでしまうが。
今回の聖杯戦争に参加する事で、間桐の跡継ぎだと臓硯に認めさせたいのだろう。
もっとも・・・
「・・・多分兄さんじゃ、姉さんや先輩には勝てませんよね・・・」
「確かに。彼が私のマスターとなっている場合。私の性能は落ちていたでしょう。」
慎二が使えないと暗に言ってますよ2人とも・・・
「それにこの結界だって、先輩にかかれば一発で解呪されちゃいますしね。」
「・・・悔しいですが、サクラの話が事実ならそうなりますね。」
まあ、結界殺しとか投影されたら一発ですよね。
ブラットフォード・アンドロメダ
他者封印・鮮血神殿も、ランクは低くないですけど。
上位の魔術になるほど概念対概念の様は濃くなって、けどだからこそあの人には通用しにくい。
「姉さんのサーヴァントは知りませんけど、先輩のセイバーさんが相手じゃ相性悪いですよね。英雄ですし。」
「・・・・・・確かに怪物は英雄に倒されるのが世界の法則ですが・・・」
なんだか段々と雲行きが怪しくなってきましたよ?
空はこんなにも青く澄み切っているのに、雲行きが怪しいとはこれ如何に。
「あはは♪セイバーさんの魔力はAだそうですから、石化もしませんねえ。」
「・・・・・・・・・あの、サクラ?もしや怒って・・・?」
恐る恐る尋ねるライダーが見たものは、とっても素敵なペイントで彩られた素敵な笑顔。
藤色の髪が見事な白金と変化している。のだが、白なのに黒いってステッキーやね。
「やだ、ライダー。兄さんの指示で仕方なくこんな結界を張ったのに、私に教えてくれなかったからって、
そんな事で怒ったりしませんよ?うふふ・・・」
「・・・あ。いえ、サクラ。決してサクラを蔑ろにしていたという事は無くてですね!」
桜の黒い影が舞い踊る凄惨空間。蛇なのに丸呑みにされるとはこれ如何に。
結局それは、士郎が飛び込んでくる数瞬前まで、続けられる事となった。合掌。
◆
時刻は8時を回って、世界は夜へ移った。日常から非常に反転するように。
誰もいない教室。誰も歩いていない廊下。
もはや構内に残っているのは2人だけ・・・そう。生者は2人だけだ。
そんな荒涼世界。ここには色がなく、世界はまるでモノクロ映画のように色彩が失われている。
「・・・っは、なんて妄想。単に夜になっただけじゃねえか・・・」
だけど、知っている。こんな世界を俺は知っている。
違いは塵のように転がる『何か』の有無と、あれは白黒ではなく赤く紅く朱かったというだけ。
校門から母校を眺めて、そんな無意味な過去を幻視してしまう。
傍らのセイバーも気にならない。彼女と俺の過去は重ならない。どこまでいっても共有などできはしないのだから。
「セイバー、他のサーヴァントの気配は?」
「ありません。」
そう告げる彼女はすでに戦装束に身を包んでいた。
俺が頼んだ荷物を抱えて、すっ飛んできたのはいいが・・・頼むから服を消し飛ばすな。
やれやれ。きっと今の俺は疲れきった顔をしているに違いない。
そしてセイバーは俺を不満そうに睨んでいるのだから、まったく疲れるというものだ。
凛達が来るまでに、もう一度釘を刺しておこう。でなければ俺の身が持たない。
門柱に背を預けて、彼女を見る。
外套の内側に符や短剣をしまいながら、口を開いた。
「いいか、絶対に喧嘩すんなよー?セイバーが戦うって決めたら、俺なんかじゃ止められねえんだから。」
実際、昨夜の戦闘と朝の試合でよーく解った。俺じゃどーしようもねえ。
そりゃあ人間程度が英霊と戦えるわけがねえってのはよーく解ってるけどよー・・・
あ、不満そうな顔が今度は不機嫌そうな顔になった。
当たり前だよな。だってガキに言い聞かせるような台詞だったしね!!
ほーら段々と背筋が寒くなってきましたよ?あ、寒いのかな?震えてきたなあ・・・
うん。セイバーをからかうのは命懸けってか?あはは。阿呆だ。真性の。
「ま、行くか。全員下校したみてえだし、雑用押し付けられた馬鹿もいねえだろ。きっと。」
「具体的ですね。」
◆
帰宅していた凛がやってきたので、早速刻印をぶち壊してやろうと構内を歩いているわけなんですが・・・
「・・・使えないわね。」
わお。人並みの良心があれば言えない言葉をあっさりと言いやがりましたよこの金欠悪魔。
凛が見込んでたのは、破戒すべき全ての符だろうが、あれは宝具まで初期化できやしねえよ。
「幻想殺しとか投影できないわけ?」
「だからそれは何処の高校生超能力だっての。」
イマジンブレイカーとか?シラネ。
とか話していれば、やっとこ最寄の刻印に辿り着きましたよっと。
凛に命令されるまでもなく、俺は刻印に触れて解析を始める。
・・・敷地を覆う結界・・・基を確認・・・骨子の解析、完了。
閉じた目をそのままに、今度は結界と霊脈を繋ぐ接点の解析・・・完了。
肺に満ちた空気を吐き出す。知らずに呼吸するのを止めていたらしい。
後ろに立つ凛に振り返り、額に浮かぶ汗を拭いながら笑顔で結論を告げた。
「ん。これ壊せねえわ。」
「役立たず。」
──────────────言葉ってさ、やっぱ暴力だと思うわけなんだが・・・どうよ?
蟲も殺せぬような笑顔でなんちゅーエグイ台詞を吐きやがりますかね、この師匠様は。
俺だって流石に泣きたくなってくるぜ。むしろ哭きたい。
「・・・リン、それ以上の侮辱は──────────────」
「いーんだよ、セイバー。・・・もう慣れたよ・・・」
セイバーが不満そうに俺を見るが、それだけで何故か涙が出そうだ。優しさが沁みるZE!!
なんて言ってる場合でもねえし、真面目な顔で刻印に処置を施していく。
処置とはようするに魔力を引っこ抜いてくだけなんだけど、まあ折角だし宝石に移しておこう。
「そーだな。発動された瞬間に、俺が結界の内側に存在していればいいだけの話か。」
まあ、許容値の問題があるけど、多分大丈夫だろ。
心象世界の丘にある設計図を確認して、そう結論付ける。
「・・・ん。うっし、次にい──────────────」
唐突に、セイバーが聖剣を構えた。
◆
interlude
オレは悩んでいた。いや、苦悩していた。
もはや自分がどれほど永い時間抱き続けてきたのか解らないが、1つの願望について。
オレは衛宮士郎を殺す事で、座に縛られた己の消滅を希望にして生きてきた。
こうして第5次聖杯戦争に参加できたと知った時は歓喜で震えたほどに。
だが、此処の衛宮士郎を囲む状況はオレのときとは明らかに違いすぎる。
例えば魔術。当時のオレは強化すら満足に扱えぬ無才ぶりであった。
例えば肉体。当時のオレは今よりもっと小柄であった。
例えば関係。当時のオレは凛の事を学園のアイドル程度の認識しか持っていなかった。
そして、例えば──────────────理想。
この世界の衛宮士郎は、決して『オレ』になどならぬ。
過去に何があったのかは知らないが、理想と現実に磨耗して、しかし折れる前に自ら理想を捨てた。
・・・いや、諦めたのだろう。世界全てを救うなどという他者の夢を追うのではなく。
大切な者を守るという『真実その身から生まれた願望』を選んだだけ。
故にオレは苦悩している。
ようやく廻ってきた機会だと思えば、どう足掻いてもオレになどならぬ衛宮士郎。
奴を殺したところで、オレの願いは叶わぬだろうし、凛もそれを許すまい。
だが、奴の顔を見ていると湧き上がる殺意もまた事実。
八つ当たりだと理解はしていても、どうしようもなく消えてくれない敵意。
ならば────────────────────────────
・・・まだ時間はある。結論を急ぐ事もあるまい。
今は、目前の敵を打倒するだけだ。
かつて、己を殺した青い槍兵を確認して、己の役目を果たす。
interlude out
◆
風が流れるのを肌で感じて、何事かと振り向くと、セイバーが剣を構えていた。
「・・・どっちだ、セイバー。」
「サーヴァントです、マスター。下がってください。」
なるほど。結界の主が異常に気付いたのか、それとも結界に釣られてやってきた間抜けを狙う別勢力か。
確かに、セイバーの視線の先からは純粋な戦意が漂ってくる。
俺はセイバーの言葉通り僅かに後退して、凛と並ぶ。
凛の魔術は戦闘には向いてない。いや、普段の様子からは否定したくなるが、向いていないんだって。
魔術師としては凛のほうが圧倒的に上位だが、戦闘なら俺のほうが勝る。
いざとなれば身を盾にしてでも守ればいい。
無駄無しの弓を取り出す。いつでも装填できるように回路に設計図を待機させておく。
「へえ、そっちの兄ちゃんがマスターか。てっきりお嬢ちゃんのほうかと思ったんだが。」
声の主は真紅の槍を携え、現れた。
俺の、いや。俺達の口から自然と1つの単語が零れた。それは誰にも、神にすら止められぬ。
「「なんでタイツ?」」
「タイツとか言うな!こりゃ皮鎧だ!」
「あ、そうなの?てっきり江○でも現れたのかと思ったわ。」
その名前はヤバイので止めとけナー?
芸人風味が漂うが、あれはやはり槍兵のサーヴァントか。
軽口を叩きながらも奴の持つ槍を視認して認識して観測して理解する。
・・・宝具。銘はゲイボルグか。やべえな。性能的には原典のグングニルを上回ってるんじゃねえのか?
あの槍を持つのは影の国の女王かアイルランドの光の御子の2人。
奴をどー見ても男にしか見えねえし、きっと後者だろうね。きっと。
回路に待機させる設計図の変更。
強化による性能強化。概念加護の強化。認識速度・空間把握の能力向上。
ラインからセイバーを呼びかける。
『多分、奴の真名はクーフーリンだと思う。ゲイボルクの能力は因果の逆転させる「原因の槍」だ。
心臓を貫く結果を先に用意する反則臭い宝具。注意してくれ。出されりゃマズイ。』
『何故解ったのですか?』
『はっ、そんな事を気にしてる場合かよ。セイバー』
『・・・では、後ほど。』
そういや、セイバーに「解析」の事言ってなかったっけか?
まあ説明は後でもできる。今は眼前の敵の打倒に執心するのみ。
「士郎。ここじゃアーチャーが使えない。外に。」
凛の言葉に頷きで答える。セイバーにもそれを告げて、
「んじゃ、始めようか。」
青の槍兵に告げて、窓から飛び降りた。
◆
凛を抱き上げて窓から飛び降りる。
3階とはいえ、着地に失敗すれば死ぬ事もありえる高度。
「着地は任せるわよ、士郎。」
「あいよ。師匠様。」
此処で少しは恥じらってもいいような気がしなくもない。はは、なんだこの無駄思考。
重力と言う4大法則から抜け出せぬ身は、正しく囚われ落下する。
それを、
軽量
「Es ist gros─────────」
凛の魔術による軽量化。俺の腕に収まる身体が、今では羽毛のように軽い。
いや普段でも軽いっちゃ軽いんだが。
──────────────着地。足が衝撃で痺れるが問題無し。
続くように窓ガラスが砕かれ、現れるのは槍兵と騎士。
月光に照らされる騎士の顔に目を奪われそうになる。が、振り払って校庭へ走る。
俺や凛に適したフィールド。狭い廊下ではセイバーの補助ができない。
ランサーにとっても廊下よりは戦いやすいであろうが、それよりこちらの戦力差のほうが大きい。
「アーチャーは?」
「屋上に行かせたわ。狙撃は上からが定石でしょ。」
そうか。なら、準備はいいな。
凛を降ろして弓を構え直す。
ランサーは俺達と校舎の間で、セイバーと打ち合っている。
奴の槍が神速ならば、セイバーの剣もまた神速であった。
両者の打ち合いに途中参加するには、俺はあまりに力量不足だろう。
「ま、だからって何もしねえで傍観ってのは、無理な話なわけで。」
──────────────投影、完了。
ミストルティン
神を射殺す無垢な樹槍を投影する。奴がクーフーリンなら、対神宝具は効果があるだろ。
天へ掲げる鏃。限界まで引き絞られた弦が震える。・・・中てる。
──────────────シュッ
フェイルノートで放たれる矢は必中。ならば、この矢が外れる事など───────────
べきっ♪
「・・・へ?」
完全に打ち合いの隙を突いた一矢であったはずが、僅かに振るわれた穂先によって圧し折られた。
んな阿呆な!!視覚外からの、亜音速で迫る矢を見もせずに圧し折るってどんな魔術だっての!!
「面白い芸風だな。お前のマスターは。」
「戯れるな。貴様、矢避けの加護を持っているな。」
2人の声が遠いながらも聞こえる。ああ、そうですか。芸ですか・・・
凹むわあ、マジで。今までの鍛錬ってなんだったんだろ・・・まあ英霊相手に人間の技が通用するってのも稀少だけど。
しっかし、矢避けの加護か。それは計算外。予想外。
・・・でもないか。相手は戦場を駆けた英雄だ。その位の加護は持っていても不思議じゃねえ。
「となると、私達に手は無いわね。」
「宝石だって投げてるわけだしなあ・・・」
超々距離からの範囲攻撃なら加護も無効化できるだろうが、そんなの凛じゃ命中精度の問題で不可。
俺だって視界の外からの射は中てられねえ。弓の性能に頼れば可能だろうけどさ。
セイバーとランサーの剣戟が校庭に響く。
「っ、卑怯者め・・・!!」
両者ともに譲ることなく、精密射撃じみたランサーの槍を、爆発めいたセイバーの剣が応える。
既に10を超えるほど打ち合い、それでも決着などつかない。
そうだ。セイバーの剣には風王結界があった。鞘たる風の認識阻害を突破できていない。
小次郎は幻覚系への補正があったために無効化されたが・・・これなら。
最短の工程で魔具を起動する。弓に新たな剣を装填して弦を絞る。
幻覚を多重起動し、その数は5つ。剣で、槍で、斧で、鉄甲で、双剣で、それぞれ幻の俺が疾走する。
「っちぃ!面倒な命令を出しおって、戯けが・・・!!」
獣じみたランサーの動きだが、それでも堪らぬと、一気に後退して間合いを離す。
トレースフラクタル
「──────投影、重装───────我が骨子は捻れ狂う。」
『巻き込まれないようにしてくれ、セイバー』
ランサーの言葉の意味を推測する事もできないまま、弦を離す。
螺旋に捻れた一角剣を放てば、正しく大気を裂き亜音速でランサーへ飛来する。
セイバーが転進。更に広がる間合いの中間に矢が至り、崩壊させる。
指向性のある爆風に混じる鉄片に巻き込まれまいと大きく跳躍するランサーを、
身体は剣で出来ている
「──────────────I am the bone of my sword・・・」
屋上より狙い続けていたアーチャーの矢が知覚外から打ち込まれる。その数12矢。
矢避けの加護は狙撃者を知覚しているかぎり、その軌道を認識する技能。
ならばアーチャーの矢は加護の領域外からの一撃に他ならない。流石は弓の英霊ってか。
しかし、賞賛すべきは槍の英霊であろう。
壊れた幻想による範囲攻撃、知覚外からの12矢、その2撃を負傷しながらも致命は避けきったのだから。
「・・・あー、しんど・・・」
楽しそうに笑いながら、疲労を吐露する。
所々に傷があり、左の肩にはアーチャーの矢が貫いた痕まである。
それでも戦意衰えを知らず。嬉々として戦場に立っている。
「化け物じみてるな。まいった、食事に誘ってもいいか?」
「・・・そりゃ俺の名を知って言ってるのか?」
まーね。でも犬を食べる習慣なんぞ大昔に廃れたから、安心していいデスヨー?
ぞくりと、大気が凄愴を帯びて硬質化していく。
「なら、受けておけ。我が一撃。」
──────────────やべ。
ランサーが俺に迫る。まずい。後ろには凛。セイバーはランサーの後ろ。アーチャーの援護は・・・期待しねえ。
逃げれば凛が危ないし、セイバーは多分間に合わない。けど俺の手持ちの礼装でアレを防げる盾は無い。
えーと、略すと・・・俺ってば絶望的なんじゃね?
「っ投影、完了・・・!!」
なら俺は
ゲイ
「刺し穿つ──────────────」
槍が伸びる。俺の心臓を貫いたという結果に従い、因果を捲る呪いの魔槍。
それを認識しながらも、俺は投影した『鉄球』に生成した魔力を流し込む。
ア ン サ ラ ー
「後より出でて先に断つもの───────────!!」
まあ、ぶっちゃけた話。
分の悪い賭けとは思うけど。
鞘があれば、挽肉にでもされなきゃ再生できるだろうし。
だったら、此処でこいつを倒せば、それだけセイバーや桜、凛の負担も減るわけだし。
・・・っは。やっぱ自己中だわ。俺。
ボルク
「──────────────死棘の槍!!」
槍が軌道変化する。俺の足元へ向いていた穂先が跳ね上がる。
否。それは最初から俺の心臓へ向かって疾走していた。
それを、
フラガラック
「斬り抉る戦神の剣!!」
時を逆走する剣で応えた。
──────────────ずっ・・・
「シロウ!!」 「士郎!?」 「戯け・・・!!」
3様の声が聞こえる。
でも、間も無く意識が沈む。
最後に見たものは、ランサーが消えた瞬間と、駆け寄るセイバー。
・・・糞。令呪で回収したのか・・・
衝撃と失血で力の入らぬ足が崩れる。それを、誰かが支えてくれた。
・・・ダレカガチカクニイル。
デモ、ソレガダレナノカ、モウミエナインダ。
──────────────落ちる。
◆
夜の街は静かで、まるで深海を泳いでいるみたいだ。
「シロウに会えるかな?バーサーカー」
あー、うん。出会えるといいな。
「■■■■■■■■■■■■■・・・」
うん。会ったとしても、シロウのサーヴァントなんかにバーサーカーは負けないよね。
だから本当は会えないほうがいいんだ。シロウは最後に戦って、それから手に入れるんだ。
その頃には、私も人としての機能が大分無くなっちゃってるだろうし。
シロウと戦うのに、きっと私の意識は邪魔になると思うから。
シロウは私の弟だもの。姉は、弟を守るものなんだから。
てくてくと、小さな歩幅で夜の街を歩く。
目指すのはシロウの学校。あそこに張られた結界を見に行くために。
だってシロウが他のサーヴァントに殺されるなんて耐えられない。
シロウを殺していいのは私だけなんだから。
どーせ結界の除去しにシロウが来てるだろうけど、それを狙うマスターがいるかもしれないし。
・・・うん。シロウを殺すのは絶対だけど、誰かに殺させない為に助けるのはいい筈。
少しだけ足が軽くなったような気がする。
キャスターも、今夜は大人しく陣地に引っ込んでるみたいだし、戦闘して────────────
「・・・っ、バーサーカー!!」
バーサーカーの肩に乗せてもらって、学校へ走り出す。
急いで向かわなくては駄目。学校にサーヴァントが3人も集まってるなんて!
もし2対1でシロウが戦ってたら、危ないもの!
瞬く間に距離は埋まり、校庭に飛び込んだ私が見たのは、
「シロウ!!」
死に掛けたシロウ。心臓が破壊されて、胸から血を溢す姿だった。
その両脇に誰かがいるけれど無視してシロウに駆け寄る。
「シロウ!やだ、死ぬなんて許さないんだから・・・!!」
魔術で治療しようとしても、効かない。
・・・呪いのせいで効果が阻害されてる。
「ちょ、貴女は──────────」
聞こえない。考えなきゃ。シロウを助ける方法を・・・
『ああ、切嗣が助けてくれたんだ。』
思い出す。シロウと切嗣が出会った経緯を。
あの晩に話してくれた事実を思い出す。
鞘。そうだ。鞘を触媒にして切嗣はアーサー王を召喚した。
そしてシロウを助けるために鞘を使った。
鞘の効果なら、呪いも弾いてくれるはず・・・
それで、私は初めて周りを見た。
魔術師の女。違う。
女のサーヴァント。違う。
赤いサーヴァント!!
その長躯に駆け寄って手を・・・届かないので外套を引っ張る。
「ねえ!貴方がアーサー王でしょ!?シロウの鞘に魔力を送って!!」
「い、いや私は・・・」
「アーサー王ですって!?」
む、魔術師の女が五月蝿い。無視。そんな場合じゃない。
「早く、シロウの裡に鞘があるでしょ!マスターが死んでもいいの!?」
「う、ぬ。だそうだぞ、セイバー。」
え?だって、アーサー王って・・・
銀色の鎧を着たサーヴァントが、シロウの胸に手を当てている。
「あ・・・」
◆
あとがき、という名の言い訳。
・はいはい、羽山ですー
「そこに正座。」
・はい。むしろ自発的に土下座させていただきます!
スイマセン!マジでスイマセン!!
「何故更新が遅れたのだ?」
・脳内小人達が賃上げ交渉でストを始めたので───────────
「さて、急に屠竜刀の素振りがしたくなってきたな。」
・スイマセン。大学と仕事が予想外に忙しかったからです!
むしろ俺がストライキしたかったわー!!
「そうか。で、なんだこの様は。」
・いやあギ○ナさん。そんな貶さないでくださいよ・・・
俺が一番解かってるんですからあ・・・
アーチャーをアーサーと勘違いするイリヤが書きたかっただけです!!
無性に癒されましたよ。マジで。
ランサーの兄貴は後でまた再登場しますしねー
・次話は日常編とでも言いましょうか。
ほのぼのとした殺伐とした乾燥気味な衛宮家をお送りします♪
「・・・というか、何故私が此処に?」
・さあ?──────────────あ。
多分、続く・・・(首を斬られたので首無し騎兵になろうか悩みつつ・・・)
もりもり元気が湧いてくる!