Fate「無限の世界」Act.8
〜月下戦闘〜
◆
美しき月が地上を照らす。現在が過去へと移る境界時刻。
錬鉄のマスターと剣のサーヴァントが仰ぎ見るのは柳洞寺、その山門。
冴々と凍る月下に佇むのは暗殺者にして剣士、佐々木小次郎。
その目が捉えるのは魔術使いか騎士王か。
お互い、それぞれの想いなど知る由も無い。
魔術使いは街の日常の為に。
騎士王は己の願望の為に。
剣士は生前に果せなかった悔いの為に。
想いを胸に今夜彼らは邂逅する。
夜明けは遠く、月明かりが滴るように愚者達を無音で嘲笑していた。
──────────────決着。
◆
interlude
暗い。闇が質量を持つとしたら、この部屋に入ったものは例外無く圧力に屈する程の闇。
奈落の底にも劣らぬ闇の中、亡霊と物体となった女の声だけが木霊する。
『────────────────────────────』
虚ろに濁った目は何も映す事なく。口から零れるものは呼気と1つの呼び名だけだ。
亡霊と化した侍は沈痛な表情で女を見つめて、やがて外へ出る。
残された女の事を、最後まで──────────────
「・・・今更、他人の心配など──────────────」
亡霊が消える、その2時間前。
interlude out
◆
冷気に凍えているはずの大気が凄愴の気を帯びて高質化していく錯覚。
殺気ではなく剣気。ただ闘争を求める男の、純粋な狂気。
それだけで、背に氷塊が滑り落ちる。これからそんな相手と戦う事になるなんざ、なんて不運。
自慢じゃねえが、俺はきっと此度の聖杯戦争において最低レベルのマスターだと認識している。
凛と桜とイリヤとは戦いたくねえし。魔術協会が用意したマスターは武闘派の執行者だ。
まったく。聖杯も何を考えて俺なんかに聖痕を与えたんだか。失敗もいいところだ。
僅か十数m先の剣士を睨んで、神経を回路へと反転させる。
・・・・・・撃鉄を起こせ。思考を切り替えろ。弱い心は殺してしまえ。
身体の基本骨子を解析して、身体能力を強化。空間把握能力の上昇。警告。─────強制完了。
武装の製作理念を解析して、固有概念を強化。防刀・対魔力の上昇。警告。─────強制完了。
先刻より、世界が遅く動く錯覚。反応系の神経を倍加した結果の擬似世界だ。
緩慢な世界は何処か現実感が欠落しているけれど、もう、そんな世界にも慣れた。
「来たか。」
上段から剣士が呟く。心底楽しそうに、心底愉快そうに嗤っている。
「来たっつーの。」
じろりと睨み付けて、側のセイバーとの呼吸を合わせる。
定石では下段に位置する者より上段のほうが有利だ。
こと剣技において、セイバーの能力と奴の剣技は互角。
ならば、勝敗は宝具かマスターの補助で決まるんだろうな。
──────────────観測する。
周囲に人影は無い。否。ありえない勢力が1つ。これは無視してもいい。
中空に使い魔達が13匹。多分、小次郎のマスターの覗き屋かね。
・・・・・・結論。小次郎のマスターは此処にはいねえ。別の場所で覗き見してやがる。
『セイバー、使い魔達は俺が潰す。必要なら宝具も使ってくれ。』
ラインを通じて指示を出す。俺達の役割は明確だ。だからやり易い。
気を抜くと嗤ってしまいそうだ。楽しいと感じる自分が怖いね。危ない奴みたいじゃねえか。
『──────────────しょうがねえ。俺は存在するかぎり人を憎むんだから。』
・・・忘れた。
欠落から生き残った意識が動き出して、自然と口を開いていた。
「確認すっけど、なんであんな結界を張ったんだ?意味あんのかアレ?」
「あれは魔女殿の嫌がらせであろうよ。私とて不愉快であった。」
思い出して、眉を寄せる小次郎。
ふーん。嫌がらせね・・・サーヴァントに精神的な苦痛を与えて何を考えてやがる。魔女さんよ?
「ま、どーでもいい。んで、そっちは1人でいいのかよ。」
小次郎は肩を竦めて、相変わらず笑ってやがる。
セイバーが一歩進み、俺は一歩下がる。
そして、それぞれが己の武器を手に取った。
「ほう・・・お主の武器は弓であったか。」
投影して保管していた弓を眺めて小次郎が呟く。そういや前は剣を使ってたしなあ・・・
奴の視線が俺からセイバーに移り、また喜びに心が揺れているようだった。
「そして、そのサーヴァントの武器は不可視か。」
「ああ、おっかねえぞ?持ってるのは実は釘バットなんだぜ?」
「・・・シロウ。釘バットというものが何かは知りませんが、それは侮辱ですか?」
わお。怖ーい!やだなあセイバーさんったら。軽い冗談じゃないのよ!!
ヤバイくらいに楽しい。でもこれくらいにしようか。
最短で最少限の魔力を生成する。それだけで、俺の武器達が起動していく。
僅かに下がった位置から、弓を引く。剣を装填せずとも、自動で光の矢が形成された。
サジタリウス
月の女神より授かりし弓術。かの大英雄ヘラクレスにも教授した月天弓。
半人半馬の賢者ケイロンの弓だ。
「始めようや。良い趣向だ。今夜はこんなにも──────────────」
「──────────────ああ、月が美しい。」
衝突。
◆
正直に言えば、侮っていた。
こちらは2人で、あちらは1人。しかもセイバーはあの騎士王だ。
たかが日本の剣士程度が相手になるもんじゃねえと、侮った。
──────────────ギィン
お互い、振り抜く斬撃は必殺の一刀。だがそれを10繰り返したところで決着など遠い。
こと剣技において、佐々木小次郎はアルトリアを上回る。
・・・だが、それだけだ。
視覚ではなく触覚で奴の急所三点を捉える。
ぎりっ・・・
限界まで絞られた弓が月光を灯し、放たれる瞬間を待つ。
同時に幻覚系の魔具を多重起動。剣を両手に下げた幻覚の俺が石段を駆け上がって斬りかかる。
しかし、それは僅かな隙すら生まなかった。
「無駄だ、衛宮士郎。まやかしの類は私には無意味。」
幻影など無視してセイバーとの剣舞を続ける。
・・・確かに。幻覚に対する補正があるのか。それとも何らかの技能か。
どちらにせよ、殆ど効果がないな。意味はあるがね。
「はああああぁぁぁぁぁぁあ!!」
瀑布一閃。魔力放出による瞬間的なブーストで、セイバーの動きが更に速くなっていく。
・・・それってつまり、めちゃめちゃ魔力を持ってかれるんだけど。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うわ。もう2割も持ってかれた・・・
打ち合う両者を睨みながら、内心で舌を巻く。
セイバーの燃費の悪さに・・・ではなく、小次郎の技量に。
「つっても、俺も戦えるんだがね。」
絞られた弦が指から離れていく。正しく弦は引かれて、弓からは月の矢が放たれる。
その数4矢。直線ではなく緩く曲線を描く軌道は、セイバーを避けて奴に殺到する。
「穿て。」
眉間、心臓、横隔膜。亜音速で迫る月光。
だと言うのに、
「──────────────ふっ!」
多重屈折現象による同時斬撃の軌跡が矢の軌道と重なる。
それだけで3矢は消され、続くセイバーの連撃も凌ぎきった。んな、アホな!
糞ったれめ。この弓で一度に放てる矢は三矢までしかないから、燕返しで破られる。
しょうがねえ。痛いから嫌いなんだがね。これ。
ケイロンの弓を天に掲げて、今度は月光ではなく偽造された剣を装填する。
銘は魔弾タスラム。それを2振り形状を偽造して中空へ撃ち放つ。
「キッ──────────────」
木々の合間に隠れる覗き魔共が逃走を図るも、剣は疾走し正しく13全てのそれを貫き中身をぶち撒けた。
「セイバー、目は潰した。手加減は止めていいぞ。」
「はい。」
セイバーの顔が無機質な機械のまま、僅かに不敵に笑った。
俺も似たような顔をしているのだろう。確認はできないけれど。
──────────────風が、吹いた。
鞘たる風から開放された黄金の刀身が輝き、その威容を現す。
その美しきこと。目を奪われる。
しかし、これで勝てるという訳でもない。
だから、俺が支援するんだ。
トレース・フラクタル
「投影・重装。──────────────我が骨子は捻れ狂い忘我へ至る。」
待機させていた図面から、更にもう一つ弓と剣を投影する。
フェイルノート
無駄無しの弓。トリスタンが製造した『決して外れる事の無かった弓』を天へ掲げる。
装填された剣は慈悲の名を冠した氷の名刀。かの大司教が最後に抜くとされた褐色の剣。
それは美しい装飾に彩られた短剣であったが、俺の手にあるものは刀身が捻れ絡まっていた。
視覚ではなく触覚で奴を捉える。自己暗示の呪文の助けもあって、覚我でありながら忘我する。
呼吸は平らに、渾身の力で弦を絞り奴の動きを見る・視る・観る。
「──────────────っ」
そして、放つ。天を穿つ勢いで上空へと疾走を始めた。
位置的に下に居たとはいえ、そんな差分など遥かに越える高度。
しかし、矢は上空から地を望み、途端に奴へと奔り出した。
──────────────小次郎まで、あと34秒。
アルマス
セイバーの頭上より迫る慈悲の氷刀と騎士王の聖剣。どちらも必死の一撃だ。
無論。それは当たらなければ意味がない。
だから、中てるんだ。
幻惑の魔具を再び多重起動する。
・・・そうだ。これに効果は殆どない。
無いのだが、それでも幻覚と実体を見抜くまでの刹那が隙となる。
そして、その幻覚に混じって俺も疾走する!
手には抜刀した夫婦剣を携えて、石段を弾丸のように駆け上がる。
「な!シロウ!下がっていてください!!」
セイバーと並んで小次郎に斬りかかる。無論、俺の技量では奴に毛ほども傷付ける事もできない。
だが、『致命傷にならぬ程度の負傷を受ける事はできる。』
──────────────ずっ
「はっ・・・!ぎっ!!」
容易く足を切断された。痛みに思考が狂いたくなる。
だが上等。これでいい。こうでもしなければ、俺に出番はねえ。
これで、あと11秒。
ヴェルグ・アヴェスター
「──────────────偽り写し示す万象!」
「がっ!?」
小次郎の顔が疑問と苦痛に歪む。奴の陣羽織が、内側から血が滲んで朱に染まる。
理解できぬ痛みに眉を寄せ、しかし休む事も出来ずに刀を振るうアサシン。
俺が継承したのは、同位体の知識や経験だけじゃねえ。アヴェンジャーの性格とその宝具も共有した。
故に、人の身にして俺は宝具の現物を持つに至ったって事だ。
傷を共有する原呪術。俺の負傷を奴の魂に刻み込む治療困難な傷に、流石の奴も戸惑う。
だが、これだけでは奴を打倒できない。致命に至る傷では意味が無い。そして軽傷ではもっと意味が無い。
しかしセイバーを相手に戦うには充分すぎる性能の低下であり、そして隙となる。
「っく!シロウ、そのまま下がってください。後は私が。」
「・・・悪い、頼むわ。」
そして、矢が襲い掛かる!
片足でセイバーの剣を捌くには限界があり、そして矢から逃れる為にはもっと性能が不足する。
けど、燕返しが放てぬ訳ではないだろう?
だから、それすら封じるんだ。
足の出血など無視して、その瞬間を待つ。警告。致命傷。早急に治療の必要・・・黙れ。
零れ続ける血の暖かさが感じられなくなれば、それは甘美な死への誘惑だ。
だけど治療する訳にはいかねえ。小次郎と傷を『共有』している状態なんだ。
俺が治療してしまえば、小次郎の足も再び動くだろう。それはまだ駄目だ。
矢が小次郎の眼前まで迫る。捻れた刀身を砕こうと奴の長刀が翻り──────────────
撃鉄を叩き落とす。引き金にかかりっぱなしだった指を引けば、機構は役目を果す。
ブロークン・ファンタズム
「壊れた幻想。」
──────────────ぼっ!
捻れ狂った矢。宝具という高純度の幻想は高純度の爆薬と同義。
ありったけの魔力の籠められた幻想の崩壊によって生まれた爆圧は激しく。
後方に下がっている俺の頬にも熱が届く。
ほんの僅かに体勢が崩れる。動かぬ足ではそれを止める事も困難で。
その隙が、どうしようもなく、避わしようもなく、致命的だった。
「はああぁぁぁぁああ!!」
斬。
セイバーの聖剣が瀑布の如き奔流となり、小次郎は必殺の魔技を放つことすら出来ず、袈裟に深く斬られる。
音も無く、それで、決着となった。
──────────────か、らん。
しいて言うのなら、手から滑り落ちた長刀が石段に当たったその音が、終わりと告げているようだった。
切り裂かれ朱に染まった陣羽織。その口元も自身の血で汚れている。
「私の──────────────負けか。」
それでも、奴は、・・・いや、佐々木小次郎は笑っていた。
心底楽しそうに。嬉しそうに笑っていた。
俺は、気まずさから小次郎の顔を直視できずにいた。
だってそうだろう?
こいつは真実、誰も殺してなんかいなかったんだ。
それをこんな風に殺すんだから。勝手なもんだよなあ。
楽しいと思えたのは始めだけ。
やはり本質的に、俺は『俺』のままなのだろう。
斬られた足を拾って、断面を傷口に当てる。
鞘に魔力を流し込んでやれば、数秒で接合してくれた。
「シロウ、怪我は。」
「大丈夫だ。じきに完治すんだろ。」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「・・・すまねえなあ。情けねえ男で。」
まったくだ。なんて小次郎は笑う。は、すげえ。今際の際でも軽口が叩けるってのは尊敬する。
──────────────ああ、いや。訂正。剣士としても、人間的にも。
「凱歌を、謳え衛宮士郎。そのような顔を、されては私も黄泉路で、迷うというものだ。
・・・山門の隠し戸、に女が、いる。彼女の事を、頼めるか?」
切れ切れに告げられた言葉に、俺は山門を見上げてその戸を確認した。
無意識にも慌てていたのか解析も警戒もせずに戸を開け放つと、そこは小さな部屋となっている。
その中央で布団に寝かされている女性を見る。・・・息はある。けど、これは・・・
そっと痛む身体を動員して、その女性を抱き上げる。
・・・浴衣が捲れたのは事故ですよ。見ないようにそれを直す。
外に出る。凍えた夜気が、熱くなった身体を冷ましてゆく。
「・・・この人は?」
「私の現界に必要な魔力を、得る為に、魔女が攫ってきた、女だ。」
・・・成程。小次郎のマスターは真性の魔術師ってわけか。反吐が出るぜ。
「責任をもって面倒見るよ。」
「そうか。」
──────────────なら、これでおしまい。
「あー、介錯とか、いるか?」
「さて、もはや消える、が定めだ。月でも、愛でて朽ちるのも、悪くない。」
そっか。
「じゃあな、佐々木小次郎。」
「さらばだ、衛宮士郎。」
そうして、俺は、女性を抱いたまま、セイバーと共に、家路を急いだ。
──────────────アサシン。敗北──────────────?
「・・・もう、シロウってば無用心なんだから。」
「■■■■■■■■■■■■■■■■・・・・」
「今日は戦う気は無いのよ?だから、大人しく陣地で眠りなさい。」
「・・・くっ・・・」
◆
「おかえり、士郎。」
「・・・今夜は家にいてくれって、頼まなかったっけ?」
家に帰ってきてみれば、不機嫌そうな凛に出迎えられた。
まったく。俺の頼みなんぞ聞いちゃいねえな・・・
「ちゃんと『貴方の』家で大人しくしてあげたじゃない。」
「凛。そーゆーのを詭弁って言うんだって誰か教えてくれなかったか?」
まったく。
◆
interlude
「もってあと数刻。月を愛でるにも、肴の一つも欲しいものよ・・・」
消え行くその身に、未練は無く。ただ己の敗北を受け入れていた。
だが──────────────
「・・・?──────────────ごふっ!」
きいきいと、蟲の鳴き声が聞こえる。
「・・・く、どうも・・・そう都合良く逝く事はできぬようだな・・・」
「カカカ。すまぬがその身体、ワシが利用させてもらおうかの・・・」
ぞぶりと、腹が割け肉が砕ける。臓腑が歪み奇怪な何かに変化していく。
「・・・よかろう。好きにするがいい。所詮は我が腹より這い出るもの、ろくな性根ではなかろうよ・・・!」
自決する事さえ出来ぬその身で、小次郎は笑っていた。
凄絶と言えば──────────────其れこそが凄絶であった。
「だが、心せよ。貴様の敵は────────────」
「キ、キキ・・・」
「────────────────────────────手強いぞ。」
interlude out
◆
「士郎。とりあえず、彼女は離れの客間に寝かせておいたわよ?」
「・・・サンキュ。」
縁側で、一人月を見上げている士郎が、ひどく遠く感じる。
私は優秀な魔術師だと自負しているけれど、所詮は冬木以外の世界を知らない。
だから、汚いものを見る機会もそんなに無いし、言ってみれば世間知らずだ。
けれど士郎はたまに、本当にたまにこういう顔で笑う時がある。
・・・例えば、仕事から帰ってきた時。誰かを、何かを傷付けた時とかに。
「・・・怪我は、してないのよね?」
悔しいが、私には士郎の気持ちは解らない。
もともとそういう人間なのだ。私は。人の気持ちが理解できない。
そんな事はないと士郎や桜は言ってくれたけど、私には解らない。
「ん。大丈夫だって。」
こちらを振り返る事もせず、相変わらず視線は空の月。
私は黙って、士郎の隣に座る。
「・・・」
「・・・」
言いたい事は山ほどある。けれど、今は言わない。こんな泣きそうな男の子を虐めても仕方ないし。
それに、士郎は理解しても反省してくれないだろう。間違ってるとは、思ってないだろうから。
しばしそのまま、2人で月を眺めていた。
「凛。」
「なに?──────────────きゃっ」
手を引かれて、その勢いのまま士郎に抱き締められた。
「ちょ、ちょっと!いきなり・・・」
「・・・ごめん、泣かせてくれ。」
・・・まったく。
士郎は嗚咽もなく、静かに涙を流す。
そのまま崩れるように眠ってしまうまで、私はその広い背中を優しく撫でてやった。
「理想を諦めたけど、それでも葛藤は残る・・・か。」
難儀なものね。と、その寝顔に告げてやる。
「・・・ちょっと、セイバー。いるんでしょ?桜も隠れてないで出てきなさいよ。」
「姉さん。ずるいですよ。先輩を慰めたいのは私だって同じなんですから。」
「敵意はないようでしたから、控えていたのですが・・・」
廊下の奥から桜が、襖の向こう側からセイバーが出てくる。
まったく。セイバーはともかく、桜はもっと前にでてくればいいのに。
「このまま此処で寝かせといたら、いくら馬鹿でも風邪ひくわよ。運ぶの手伝って。」
「じゃあ、私は布団を敷いてきますね。」
「解りました。」
「ね、このまま並んで寝ちゃいましょうか?」
「その行為に意味があるとは思えない。警戒でしたら私がいますから、貴女達が心配する必要はありません。」
「それは違いますよ、セイバーさん。先輩は今人肌恋しいんです。」
「それも誤解を招きそうね・・・」
「言い出しっぺの姉さんが言わないで下さいよ。」
「ふむ・・・つまり、シロウの精神安定の為に必要な行為だと?」
朝起きたら心底驚くだろうけれど、ね。
◆
もりもり元気が湧いてくる!