Fate「無限の世界」Act.6
〜異常(捜査)〜
◆
「・・・ったく、あの馬鹿。こんな時に休むなんて・・・」
昼休みも終わって、他の生徒達が教室で授業を受けている頃。
私は屋上でアーチャーと話をしていた。
・・・授業?今日はもう早退するわよ。用事もあるし。
「それで、アンタはどう思うの。この結界。」
「恐らくは宝具だろうな。私には破壊できない。」
でしょうね。呪刻は見つけられるけど、消去はできない。魔力を抜き取って発動を遅らせるのが精々か。
士郎がいれば、もうちょっと手はあったのかもしれないけど・・・知らない。あの馬鹿弟子の事なんて。
「まあいいわ。それじゃ今日はこのまま街を案内するから。」
◆
「・・・すっげえ嫌な予感がする。」
無意味に悪寒を感じる。なんだ?どっからだ?殺気か?違う。でも近い。
寒さに震えた訳ではないんだけどな・・・まあいいや。
「──────────────解析開始」
塀に掌を当ててその内部と、昨夜此処で起きた偽りの惨殺空間を解析する。
・・・血痕も、その痕跡もねえ。魔術で除去したのならその痕跡が残る。それすら消した?
否。それは慎重すぎるし魔力の無駄だ。そこまでする魔術師は・・・多分いない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・これか。
「解析完了。・・・セイバーは此処で待っててくれるか?」
「解りました。」
静かに頷くセイバー。ま、これも勝つ為だと自分に言い聞かせてるんだろう。
でなきゃこんなへっぽこ魔術使いの指示になんて従ってられねえよなあ・・・卑下しすぎかな?
認識阻害の魔具が正常に機能しているか確認して、塀を飛び越える。よっこらせ。
そのまま庭を横断して、隅に残された魔術の痕跡を調べる。
・・・どうなってんだ?
これ以上は見るものもない。一応「解析」の魔術を付与したモノクルで住民を覗いて見たが異常なし。むう。
結界の基点となっていた石を拾って・・・成程・・・無造作にポケットにしまう。
気取られぬよう塀を飛び越えて、セイバーの元へ戻る。セイバーの意見も聞きたいしな。
「何か解りましたか?」
「うん。かくかくしかじかと言うわけなんだ。」
俺のもんの凄いテキトーな説明にもならない軽口に頷くセイバー。
「成程。」
「って解るんだ・・・」
すっごい手抜き感が漂うな。マジで。
「・・・どう思う?結界内に侵入してきた奴に幻覚を見せる必要があるか?」
そう。さっき解析して解ったのは、その効果だけ。
結論から言えば、昨夜はこの民家に殺戮なんて起こらなかった。俺が見たのは幻覚だったってオチ。
・・・つまりは、アサシンを名乗ったあの男は誰も殺してなんかいなかった。
「訳が解らない。そんな事をする意味はなんだ?理由は?目的は?まるで意味不明だ。」
「そうですね。そんな無駄をする意味は無いでしょう。」
生き残ってるように見えたあの子も、言峰に確認したが異常はなかった。
・・・・・思考中止。これ以上は何も生まない。
「仕方ねえ。今は保留。とりあえずアサシンは誰も殺してなかったみてえだし、よしとするか。」
・・・まあ、本当はもう一つだけ発見があったんだけどな。
それは秘密。セイバーに知られたらマズイし、何より──────────────
「・・・アイツは俺をご指名みたいだしな・・・」
石に刻まれた柳洞寺という文字が、俺を呼んでるような、そんな────────────錯覚。
◆
interlude
何も無い部屋。生物は立ち入る事を避け、霊ですら拒む穢れ。
「──────────────さぁ──────────────」
だと言うのに、この部屋には一人の女がいた。
「────────────────────────────」
かつて己の環境に、朽ちていく自分を変えたいと望んだ少女がいた。
「─────ら────さ───────────────────」
魔術協会で己の力を振るってきた女が、いた。
「らん──────────────さ────────────」
・・・そして、慕っていた男に裏切られた女がいる。
「・・・すまぬな。」
その人であったモノに食事を用意し、献身的に世話をする侍がいた。
「恐らくは今夜にでも、あの少年が来るだろう。・・・それで、お主が解放されればよいが・・・な。」
・・・その部屋には、何も無い。
有るのは、ただ人間であった、哀れな女の─────────────
interlude out
◆
「・・・なんだ、セイバーは前回の聖杯戦争も参加してたのか。」
「はい。10年経ちますが、あまり変化はありません。」
驚愕の事実発覚。前回、つまりは第4次聖杯戦争でセイバーは召還されていた。っと。メモメモ。
成程ね。どーりで道を見ても、初めてって感じじゃなかったわけだ。ありゃ確認してたんだな。
「つっても、新都は随分と様変わりしたと思うぞ?10年前の大火災で焼け野原になった辺りとか。」
あと駅前とかな。ヴェルデなんてあるわけねーしな。
・・・中断。黙れ。出てくるな。怒りも憎悪も今はお呼びじゃねーんだ。すっこんでろ。
糞ったれ。不愉快な感情を殺しておく。気持ちを静めろ。OK?
・・・OK.
街を横断するように流れる川に掛かる大橋。
長いそれを渡りきった頃には、気持ちも落ち着いてきた。よしよし、COOLにいこう。
んで、街のイロイロな場所を周った。
此処は袋小路だから逃げ道には使うな。・・・とか。
あっちには広場がある。どうせ戦うなら周囲に被害がでないような場所でな。・・・とか。
そんな心が乾燥して罅割れるような殺伐とした会話を実に楽しみながら周ったさ。
・・・だってセイバーの奴、口を開けば作戦とか聖杯戦争がらみの事しか喋ってくんねーんだもんよ。
ソコマデ聖杯ガ欲シイカ。無関係ナ──────────────黙れ。
「・・・よっし。ここまで来たついでだ。服を買ってくか。」
表情はいつもの仏頂面。少しだけ笑みの成分を含有してるかも。要するに作り笑顔。
さっきから不愉快な感情が俺の中で深海の汚泥のように対流していて気持ちが悪い。
今いる場所のせいでもあるんだろうが。
時間も結構経って、辺りは黄昏に染まっている。
まるであの時のように赤く、紅く、赫く染まっている。
風が吹き抜けるのを遮るものなど何もない。
僅かな木とベンチ。そして一つの慰霊碑があるだけ。
怨念にも似た妄執が、この地には漂っている。
400名以上の人間が、普通に生きていただけの無関係な人間が一方的に死んだ場所。
・・・そこを、俺はただ『公園』とだけ、呼んでいる。
「ったく、荒れ放題だな。人気も相変わらずねーし、もっと手を加えればいいのに。」
つい振り返ってしまい、そんな自分の弱さを隠すようにそんな事を言っていた。
しかし、それこそ無意味だ。なにせ相手は英霊様。しかもアーサー王。こんな地獄は見慣れてるんだろ?
「この時間ならヴェルデも空いてるだろ。行こうぜ、セイバー。」
「・・・シロウ。顔色が優れないようですが・・・?」
こりゃ新発見。セイバーもそんな顔するんだ。
でも体調など悪くない。いたって健康体ですよ?マジで。
「ちょっと冷えたのかもな。ほれ、ヴェルデまで自転車をこげば身体もあったまるさ。」
◆
「・・・なにやってんのよ。馬鹿弟子・・・」
ビルの下に広がる雑踏。その中から見慣れた人影を見つけてしまった。
・・・それもすっごい美人を連れて。
「デレデレと鼻の下伸ばしちゃって。まったく・・・」
「何かあるのかね。凛。」
「んー、別に。・・・ああ、そうだ。あそこにいる金髪美人を連れた赤毛のとっぽい男。見える?」
アーチャーは少しだけ視線を彷徨わせて、すぐに見つけたと返事をした。
・・・その視線に、酷く不吉なものを感じてしまう。
「彼は私の弟子よ。今後、家に顔を出すだろうけど襲っちゃ駄目よ。」
「了解した。」
あら珍しい。コイツが皮肉を言わずに素直に返事をするなんてね。
「ま。衛宮君はマスターでもないし、さっきの子も魔術師じゃないみたいだし、邪魔しないで帰るわよ。」
「──────────────解った。」
ぞくり、とした。
アーチャーの視線が怖い。何故だか解らないけど、ただ怖いと思う。思ってしまう。
「ん?どうかしたかね、凛。」
────────────だって言うのにこの馬鹿は・・・!!!
「なんでもないわよ!ほら、寒いんだからさっさと帰る!」
「?訳が解らないな、君は。」
どっちがよ!
◆
頭上を飛び越える影二つ。それが赤い軌跡を描いて深山町へ向かっている事を確認して、ようやく安心した。
「サーヴァント・・・ですね。何故戦わないのですか。」
わお。殺る気満々ですね、セイバーさん。
・・・ざけんな?
「彼女は俺の師匠でもある。・・・普通に玄関からお邪魔して勝負しませんか?って聞きゃ決闘ですむっての。
・・・それとも?セイバーは師匠だから隙をついて後ろから殺せとでも言うわけ?ざけんな。」
両手に抱えた紙袋がやけに重く感じる。服って意外と重いよね。
「・・・いや、スマン。セイバーは彼女と俺が師弟関係にある事を知らないんだもんな。ゴメン。」
「いえ。ですが、彼女もマスターなら、いずれ戦う事になりますが・・・シロウはいいのですか?」
「別に殺し合いをする必要はねえ。凛なら正々堂々と決闘してくれるだろうさ。」
「シロウがそう言うのでしたら。」
「んな事より帰ろーぜ?荷物は意外と重いし、これから晩飯の仕度もしなきゃなんねーんだからさあ・・・」
うわ。すっごい憂鬱。でもやらなきゃ殺られる。マジですよ。
あー、セイバーの事を藤ねえや桜に説明しなきゃな・・・面倒くせ・・・
◆
もりもり元気が湧いてくる!