Fate「無限の世界」Act.5

〜異常発覚〜







 ◆


 さして変化など起こらぬ朝の登校風景。なのだが、今日はほんの少しだけ違った。
 ある交差点の近くにある、「何処かで見た」民家から警官が1人だけ出てきたのだ。
 その後ろには少女と、その両親とみられる大人が──────────────


 ──────────────い、きて・・・る?


 馬鹿な。確かにあの時・・・いや確認したわけじゃねえけど・・・・・・!
 こいつは一体どういう冗談だ?悪趣味すぎて逆に笑える。はっ!

 遠目に見ても彼らに異常はない。魔術的な要因は感知できない。
 ただ、感じる違和感。そう。確かに感じる微かな差異。なんだ?なにかが、足りない?


 ・・・あ、そっか。


 その正体に気付いた。なんだ。それだけか。
 一家の中から1人欠けているという事実に気付けた俺は、そのまま屋敷に戻る事にした。
 これは異常だ。彼らが生きている。それこそが異常。ならば、異常は異常を持って対処しよう。

 ・・・ぶっちゃけこれから調べて周ろうってのに、丸腰じゃ怖くてしょうがねえってこったな。
 来た道をそそくさと戻り、今日は自主休校と相成りました。



 そのちょっと先。校門で待っていた師匠が切れたのは、また別のお話。

 「・・・遅い。」


 ◆


 急いでもしょうがねえんだが、手早く着替えて土蔵へ向かう。
 何せ武装の類はみんな土蔵の中にあるのだから仕方ない。
 投影すれば刀剣の類はその場で用意できるが、代わりに魔力を消費する。
 そりゃ継承した魔力は俺というタンクを満たして余るもんで、タンクが膨張したかのように増えた訳だが。
 それでも凛のような膨大な魔力量には届かないし、魔力の使用効率がいいわけでもねえしな。俺。
 ・・・いや、コストパフォーマンスって意味なら破格だけどね?
 鍛錬で投影した武器をそのまま持ち歩けば魔力の節約にもなるし、

 それに、そもそも俺の武器は投影と強化の魔術だけじゃねえのさ。

                トレース・オン
 「──────────────制御開始。」


 回路を起こして魔力を通す。僅かな流れが道となり、それが鍵を開く。
 小さくかちりという音がする。錠前の外れる音はいつ聞いても安心する。よかったー失敗しなくて。

 かなりの大きさを誇る箱・・・と言うよりは、最早コンテナだな。
 ハニカム構造で作られた150×40×35の中身は・・・結構スカスカ。
 し、しょうがねえじゃん!先月の南米での仕事では経費が落ちなかったんだから!!補充もできねーよ!!
 あーあ、しまらねえ話だっての。っと、切嗣。借りるぞ。


 ・・・がちり


 簡単に動作確認。・・・よし。
 外套の内側に2つ、切嗣が残した銃を仕舞い込む。
 オートマチックが2丁。弾丸は9mパラベラム。ただし、弾頭には秘密の仕掛けがあったりする。
 マガジンを詰めて、ナイフにスローイングダガー。ついでに各種霊符も持ってくか。
 最後に鍛錬のときに投影した干将獏耶を背中に固定して準備完了。完全武装には2・3足りないがね。

 ・・・あとは、これか。

 土蔵の床に描かれた文様。いや、それは召還陣と呼ばれるものだ。
 英霊の召還には大掛かりな降霊は不要だってイリヤは言ってたけど・・・大丈夫かな?
 つーか召還すると魔力が持ってかれるんだよな。ん〜・・・

 やっぱ帰ってきてからにしようかね?
 うわ。阿呆がいる。俺です。ゴメンナサイ。
 んじゃ、ちゃっちゃか召還すっかね。
 詠唱はイリヤに教えてもらったし。なんとかなんだろ。

 魔力の問題は、これで解決すっか。
  トレース・オン
 「投影開始。」

 ──────────────創造の理念を鑑定し、
 ──────────────基本となる骨子を想定し、
 ──────────────構成された材質を複製し、

 ま、本来の衛宮士郎の性能じゃあ完璧な投影は不可能。
 もう1人衛宮士郎がいたとして、2人がかりの命懸けで投影してようやく7割ってとこかね。
 何せこれでも魔法の体現。究極の一たる剣だからな。
 例えるなら異星ではなく異星系。未だ人類が到達できぬ未来の理論なのだから。

 ──────────────製作に及ぶ技術を模倣し、
 ──────────────成長に至る経験に共感し、
 ──────────────蓄積された年月を再現し、
 ──────────────あらゆる工程を凌駕し尽くし、

 そんなものを俺なんかが投影できるってのには、勿論のことイカサマしてるって事になる。
 ・・・答えは単純。設計図だけではなく、その理論はゼル爺が説明してくれただけの事。
 つーわけで、使用に問題は無くとも理論なんぞ知った事かって感じなんだな、これが。
 爺さんは理解するまで説明しようとしてくれたんだが・・・流石はへっぽこ魔術使い。
 魔法使いが匙を投げるのも時間の問題だったよ。

 ここに幻想を結び剣と成す────────────!!
                トレース・オフ
 「──────────────投影完了。」

 無骨な、とても何かを斬る事なんてできそうもない、鈍器に近い形状。
 刀身は宝石によって編まれ、千変万化の煌きを見せている。
 投影されたのは宝石剣。偉大な魔法使いが携えた魔杖たる宝石剣。

 凛に見られたら・・・殺されそうだな。本気で。

 とりあえずラインを繋いでみる。
 うむ。問題なし。・・・って訳でもないか。ちょっと孔の開きが悪いな・・・
 何回か試してみたが、使用に影響はないと判断。早速・・・
     トレース・オン
 「・・・接続、開始。」

 平行世界への孔を開け、
  トレース・オン
 「同調開始。」

 床の陣に魔力を満たし、
  トレース・オン
 「投影開始。」

 触媒となる「鞘」を投影し、

 「・・・・・・・告げる。」


 ここに準備は整った。


 「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
  聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えろ。」

 乱舞するエーテルを無視して、その先を直視する。
 俺が召還できるものは触媒が真実「彼の鞘」であるなら────────────

 「誓いを此処に。
  我は常世全ての善となる者、
  我は常世全ての悪を敷く者。」

 持ってかれる。所詮は平凡な魔力量しか持たぬ俺には、陣を維持するだけでも一苦労だ。
 宝石剣で平行世界に穴を開け、そこから魔力を引っ張ってこなければ話にならない。
 ついでに宝石剣を起動したまま、召還を行う器用さなどない。
 極度の集中で脳の神経が悲鳴を上げて、今にも泣き出しそうだ。

 「汝三大の言霊を纏う七天。
  抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 
 ・・・しゃらんと、硬質な鋼を纏う者には似合わぬ音と、そして───────────


 「問おう。貴方が私のマスターか?」


 鈴の音にも似た、澄んだ声が、聞こえた。


 「・・・・・・・・あ、ああ。」


 きっと、この邂逅は生涯忘れぬ記憶となるだろうと、呆とした思考で、確信した。


 「サーヴァント、セイバー。聖杯の寄る辺に従い参上した。
  我が剣は汝と共に。貴方の運命は私と共にある。・・・此処に契約は完了した。」


 ・・・まあ、なんだ。
 それくらいに「彼」・・・じゃない。「彼女」は美しくて、俺の理性なんていかれちまったんだろう。


 ◆


 柳洞寺。
 かつて3つの魔道の大家が集い、共に魔法へ挑んだ地に建つ寺。
 その門に、あの侍の姿があった。

 「アサシン。」

 「・・・これは魔女殿。何用かな?」

 「7体目の召還を確認したわ。」

 側に立つのは彼の言う魔女か。
 紫貝のローブに顔を隠した女は油断無く、アサシンと呼んだ侍と向き合う。

 「宗一郎様には無理を言って寺で休んでもらっています。誰もこの地へ踏み入れぬようになさい。」

 「承知した。」

 用件を告げた魔女は、そのまま立ち去ろうとして、


 「魔女殿。」


 アサシンの侍に止められた。


 「・・・何かしら。」

 「なに、現時点では御主の犬でいてやろう。だが、次に彼等との死合を邪魔するのであれば・・・」


 「────────────────────────────」


 「──────────────遠慮無く躊躇無く、貴様の主共々その首を刎ねてくれる。覚えておけ。」


 ◆


 さてと。召還したらさっさと調べに行く予定だったんだけど・・・ちょいと変更。

 「さて、とりあえず藤ねえが置いてった服が・・・・・・この辺に・・・・何処だっけ?」

 「すみません、マスター。霊体化できればそのような手間は・・・」

 「いーよ。こっちこそ悪いな。最優のサーヴァントのマスターにしちゃ貧弱でさ。」

 貧乏くじ引いたな。セイバー。
 ・・・お。あったあった。ってこりゃ服って言わねーぞ藤ねえ・・・

 箪笥から何故か出てくるライオンのきぐるみがシュールだ。
 こうずるりと、ずるりと!いや冗談だけど。
 んー・・・こりゃ凛に相談したほうがいいなあ・・・

 「・・・そんな事はありません。貴方は私のマスターだ。」

 「はは。その間はなんだと言いたいが、そう言ってもらえると助かる。けど、魔術も半端だしなあ・・・」

 いやほんとに。凛みたいに、せめてガンドくらい使えりゃなあ・・・
                          シングルアクション
 魔術刻印もないし。・・・ってあれ?もしかして俺って一工程の魔術って・・・ない?
 驚愕の事実ここに発覚!!マジか!?ああ、マジさ!!別にいーけどさ。

 「しかも、セイバーの魔力総量いっぱいになるまで供給できねえし・・・」

 「?いえ、今の私は・・・」

 「あー、それ反則みたいなもんだから。自前で用意できなきゃ他から持ってくるのが魔術師らしいしな。」

 そこまで言って、凄い怖い目で睨まれた。
 ・・・Way?何故?俺、なんかやっちまった?

 「マスター。貴方はまさか・・・」

 「・・・?駄目だったか?霊脈から魔力をかすめとっただけなんだけど・・・」

 正確には『平行世界の冬木の霊脈』からだけどさ。
 なんだ?それってやっぱズルイか?んなもんわかっとるわい。

 「あ、いえ。私の早合点でした。すみません。マスターの人格を疑うような事を・・・」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・あ。あー、成程。魂喰いね。

 「いや、誤解を招くような発言だったな。スマン。」

 確かに、さっきの言い方は誤解してもしょうがねえよなあ。
 俺だって誤解しそうだし。しかし、ホントにセイバーって真面目なんだな。
 ・・・つーか服・・・・・・・・・あ。これなら・・・

 衣装ケースの奥から、俺が昔使ってた服がでてきた。
 サイズ的に・・・・・・ちょっと大きいが、何とか着れる範囲だろ。
 ん?なんでサイズが解るのかって?
 そんなの他のSSだって利用しまくりの「解析」の魔術があるじゃんかよ♪って誰だよせはなせ


 ※メタな発言がありました事を深くお詫びいたします。


 エ?サイズ?目測ニキマッテルジャナイカ。HAHAHA!!

 「マ、マスター?目が虚ろですが・・・大丈夫ですか?」

 「ああ、大丈夫だ。答えは得た。メタ発言には気を付けよう。」

 とりあえずジーンズとトレーナー・・・あとはハーフコートでも着せれば様にはなるな。

 「スマン。服は後で調達しよう。今はこれで我慢してくれ。」

 「あ、はい。」

 そうか。我慢してくれるか。よかったよか──────────────



 「・・・?どうかしましたか?」



 目の前で鎧を消して・・・服まで消した英霊様が、暢気に言いやがりました。
 当然そうなりゃ健全な男子には目に毒な肢体があるわけでして・・・



 「・・・・・・いや、ごめん。これは事故だと主張したい。」

 「?よく解りませんが、手をどけて顔を上げてください。」

 「そうか。もう着替え・・・ってそのまんまかよ!!」

 「服を脱がなければ着替えられないではないですか。」

 うわあ・・・超平然としていやがりますよこの女の子。
 慎みとかそのへんを何処に忘れてきやがったんですか?

 再び手で目を塞いで顔を下げた俺がそんなに不振に感じるのか、そのままの格好で近寄ってくるNO!!

 「此処で着替えなさい!俺は廊下にいるから!!此処で着替えなさい!!2回も言いましたゴメン!!」

 訳の解らない事を言いながら、俺は 廊下に 逃げ出した。

 「待って下さい。」

 しかし回り込まれた!!

 「セイバーさん!怒っていらっしゃるんでしたら着替えた後で誠心誠意謝りますから!!」

 顔を背けて逃げようとする俺の手をがしりと掴んで離さぬセイバー。
 ぬおおお!!何故だ!何故解けぬ!!

 「いえ、マスターが謝る事などありません。私の素肌など、見た所で気にする必要はありませんから。」



 「・・・はい?」


 ナニ言ッテラッシャルンデショウカネ?コノ女ノ子ハ?


 「ですから、サーヴァントである私に性別など些末事です。マスターは女性である私の身体を見て、
  慌てているのでしょう?私は女である前に騎士。そのような気遣いは不要です。」


 ・・・・・・・・・・・・・・あ、駄目だ。こいつ本気で言ってらーよ。


 「・・・解った。落ち着いたから手を離してくれ、セイバー。」

 「理解していただけましたか。」

 「うん。理解はしたけど納得はしてない。」

 「は?」

 手が開放されるのと同時に、さっと廊下へ飛び出て襖を閉める。
 ああもう。なんで着替えを用意しただけでこんなに疲れなくちゃならんのだ!!

 懐から携帯を取り出して言峰教会へコール。
 必要な情報の1つはあそこにある。

 ・・・・・・でた。

 「俺だ言峰。聞きたい事がある。」


 ◆


 「・・・解った。じゃあな。」

 確認した。あの家族は死んでなどいなかった。殺されてなどいなかった。
 ・・・考えられるのは、俺の勘違い。または錯覚かそれに類する幻覚・・・
 まさか蘇生させるなんて事はありえないし・・・

 「糞ったれめ。あの時、ちゃんと解析使ってでも確認しておけばよかった!」

 言っても始まらないが、それが本当に悔やまれる。
 ・・・まあ生きててくれたのは本当に嬉しい。よかった。
 けど、だったらあのアサシンがいた理由が解らなくなる。

 ・・・駄目だ。情報が足りない。
 これ以上は推測とも呼べない。ただの妄想と同義だ。

 「お待たせしました。」

 襖を開けて出てきたのは・・・なんて言うか・・・不恰好なセイバーさんでした。

 「・・・ちょっと丈が長かったな。」

 ジーンズの裾を折り曲げて長さを合わせる。ついでに同じ事を両袖にも施しておく。

 「あの・・・マスター、紐を貸していただけないでしょうか?その、胴回りが・・・」

 ずり下がらないようにジーンズを引っ張っているセイバー。
 ・・・ちょっと可愛いか、げふんげふん。えっとベルトは・・・と。

 「すまん。渡してなかったか。」


 ちょいと問題はあったけど、漸く準備はできた。
 ただ、出掛ける前に最低限の事くらい打ち合わせしておかないとな。

 そのまま縁側に座って、ポケットから小瓶を取り出し辺りに撒く。
 中身は聖油で、その外側と内側を区切る境界となり、簡単な視認阻害の障壁となる。
 ・・・これ、実は料理で使った香油を言峰に聖別してもらったものなんだが・・・ちゃんと使えるな。
 うう、ケチくさ・・・けど、こうやって節約しないとすぐに凛が宝石に使っちまうし・・・
 そもそも何で俺が凛の宝石代を払ってんだろ。何かあったような気がするけど、もう忘れた。

 「む。何やら香ばしい匂いがしますね。」

 「頼むからそれ以上は追求しないでくれ。切なくて泣きそうになるから。」

 「はあ。」

 どっこらせ。これで近所の人には見えないだろう。
 そもそも魔術師やキャスターのサーヴァントから隠すには、屋敷の結界で充分だ。

 「さて、この後は調べたい事があるから手短にな。」

 基本的な戦い方。それら幾つかの情報を交換しておかなければ、戦闘になった時に困るのは俺達だ。

 「俺は前衛も後衛も出来るが、セイバーってくらいだから前衛は任せる。」

 「解りました。」

 「んで・・・セイバーってアーサー王で・・・いいんだよな?触媒の関係上、それ以外は召還できねーし。」

 「はい。生前は王として生きていましたから、詩人達も男の王を後世に語ったのでしょう。」

 成程ね・・・
 アーサー王は実は2人いたって説は聞いた事あったが、こりゃそれよりもっと奇抜だな。
 事実は伝承よりも奇なものなりってか。はは、笑えて腹が痛え。胃薬くれ。

 アルトリア・ペンドラゴン。
 かのブリテンの誇る騎士王。妖精郷で眠り、祖国の危機には蘇り救ってくれる偉大な王・・・か。
 って事は──────────────
         カ リ バ ー ン 
 「剣は、岩に突き立つ選定の剣か?」

 「いえ、カリバーンは私が騎士道に反した時に折れました。」
         エクスカリバー              カルンウェナン
 「・・・って事は約束された勝利の剣・・・?それとも小さき白い柄手?」

 まさか名槍ロンじゃねーわな。セイバーのクラスで召還されたんだし。
 ライダーのクラスでもないから名馬ドゥスタリオンってのも・・・ないよなあ。

 「カルンウェナンは最後の戦場で失いました。私の持つ剣はエクスカリバーだけです。」

 そう言うと、セイバーは何かを握るような仕種を・・・って風が?
    インビジブル・エア
 「普段は風王結界が鞘として刀身を隠していますが、これが私の剣です。」

 「へえ・・・」

 刀身は確かに見えない。だが、俺の目は視る。黄金の剣を直視する。
 ・・・流石って言うべきなのかな。解析は出来ても、これほどの幻想を投影しきれるか・・・微妙だな。
 真に迫る事は出来そうだが・・・俺のほうが自滅するか。
 骨子のほうは何とかなる。ただ、製作の方法が再現しきれない。なんだよ星が鍛えるって。無理無理。

 「セイバーの宝具は聖剣と、その鞘だけか?」

 「ええ。アヴァロンは失い、名馬も盾も行方知れずですから・・・」

 無念と言いたいのかな。悔しそうな顔で俯くセイバー。
 ・・・或いは最後の戦場を思い出したのか。

 「いや、盾も馬も無くてもセイバーは最優のサーヴァントだと思うぞ。」

 冗談抜きでそう思う。先程から脳裏に浮かぶセイバーの能力表を見ているのだが・・・

 「出鱈目だ。対魔力Aって、要するに現代の魔術師じゃ傷だって付けられないじゃないか。」

 「一概に言い切れませんが、大きなアドバンテージにはなりますね。」

 ふむ・・・つまり性能差とか無視して、可か不可かと言えば、俺でもセイバーを殺せるって事か。
 ・・・あ、なんか嫌な事を考えたな。忘れよ。

 「ま、セイバーの事は大体解った。次は俺の番だな。」

 「これからの方針ですか?マスター。」

 「んー、それも含めてな。・・・なあ、それよか・・・」

 さっきから気になってしょうがねえんだが・・・

 「・・・何で自己紹介したのに名前で呼んでくれないのさ?」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。」


 ちょっと待て。あ。ってなんだ。あって!!
 視線を逸らすな。こっちを見ろ!!

 「不愉快でしたか?」

 「今更真面目な顔しても遅いと言いたいが・・・、別に不愉快とかそーいうんじゃなくて、落ち着かない。」

 「解りました。ではシロウと。・・・確かに、この方が馴染みます。」

 ほほう。ではなんで今までそっちで呼ばなかったのかね?ん?
 半眼で睨むと、とても居心地が悪そうになるセイバー。カカカ、おもしれ。

 「これからはそれで頼むよ。背中が痒くてしょうがねえや。」

 ホントに。さて、本題だ。
 外套を広げて、その内側をセイバーに見えるように調整。

 「俺は魔具の製作が本業でな。副業に解析もやるがね。自作した魔具を使う・・・補助にな。」

 「本命はその双剣ですか?」

 「まあ、これも本命っちゃ本命だけど・・・とりあえず見てもらったほうが早いか。」

 セイバーを縁側に残して、中庭の中心まで移動する。
 観客がいるからってやる事はいつもと同じ。特別な事なんて何も無い。
                トレース・オフ
 「──────────────同調終了。」

 魔力を通して、身体の性能を強化して、衣類の硬度を倍化する。
                         トレース・オン
 「これが強化。そんで──────────────投影開始。」

 ・・・いきなり竜殺しの魔剣とか投影したら怒るかな?
 とりあえず後衛としての実力を見てもらえればいいか。
  トレース・オフ
 「投影完了。」
                     フェイルノート
 アーサー王に因んで、トリスタンが製作した無駄無しの弓を投影してみる。
 ・・・こいつより、オティヌスの弩のほうが使用頻度は高いんだけどな。

 「っ!それはフェイルノートですか?」

 「ああ。俺の魔術は強化、変化、投影に特化している。投影も、厳密に言えば投影とは言えないらしいんだが、
  他に適当な名称がなくてな。んで、コイツに装填するのは・・・投影開始。」

 本当はワンセットで投影するんだがね。
 勿論そうやって投影した矢はちょっと精度が落ちるんだけど、もたもたしてたら首持ってかれるしな。

 「投影完了。」

 ギリシャ神話で主神ゼウスのシンボルたる雷を宿した剣を偽造する。
 さっきの風王結界もそうだが、伝承には度々形を持たぬ武器が存在する。その情報を偽造して急増の武器とする。
 つまりは、

 「ケラヴノス。本来はただの雷で、形はないんだけどな。これを装填して、中てる。」

 簡単に言ってるけど、此処まで持ってくるのには散々試行錯誤した。
 ・・・見ろ。骨子の偽造が酷くて、ケラヴノスが霧散した。
                  ノーブル・ファンタズム
 「流石に神造の聖剣は投影出来ないが、貴い幻想もモノによっては投影可能だ。」

 「たしかに、それなら英霊すら倒せるでしょう。」

 「そんなに上手くはいかないだろうけどな。却ってセイバーの邪魔をしちまいそうだ。」

 っと、いけね。結構魔力を消費しちまったな・・・
 凛の地下工房の中なら、マナが豊かだからそっちを引っ張ってくるんだが・・・

 「変化の魔術は補助的なもんだな。罠に使ったりする事もできるが、実戦じゃあんまり使えん。」

 「成程。それを主体に、先程の魔具を補助に使い戦うのがシロウのスタイルなのですね?」

 「ああ。・・・んじゃ、説明終了。なんか質問は?」

 「いえ。特にありません。では、今後の方針は?」

 おおう。やる気満々だよ。ま、いいけどな。

 「とりあえず今日は偵察と補給かな。調べておきたい事があるし、セイバーの服も買わないとな。」



 「・・・シロウ。それは今日の予定であって方針ではない。はぐらかさないでほしい。」



 ・・・核心を外した俺の意図などあっさり見抜いて、セイバーは踏み込んでくる。
 その目は澄んでいて、まるで極上のエメラルドも霞んでしまいそうで・・・

                     シンプル
 「・・・OK.誤魔化して悪かった。方針は単純に敵を見つけて倒す。だが、第一目的は被害を最小にする事。
  敵を探すのも倒すのも、被害を未然に防ぐ為だ。これを曲げるつもりはない。」


 甘いと言われようと、俺が聖杯戦争に参加したのはその為だ。
 聖痕が現われたからって参加したわけじゃない。
 ・・・ただ、理不尽に死ぬ命が許せないだけ。それだけだ。


 ◆


もりもり元気が湧いてくる!