Fate「無限の世界」Act.4

〜朝の一幕。〜







 ◆


 ・・・イメージするのは、常に荒野だった。
 荒れ果て、踏み固められた何処までも続く大地。
 地平の彼方まで枯れた世界。

 そこに、まるで墓標のように剣が並んでいる。


 ──────────────そんな夢を、私は見た。


 ◆


 ・・・無性に腹が立つ。
 なんだって私の周りにはこんな馬鹿共ばかりなのだろうか。
 まったく。士郎の馬鹿もそうだけど、もっと自分を省みなさいよね。
 それに付き合わされる身にもなってほしいわ。

 (付き合わされる?ざけんな。こっちが振り回されるの間違いだろ!?)

 なんか変な電波を拾った気がする。

 ・・・まあ、いいわ。
 今日は慣らし運転って事で、アーチャーに街を見てもらおう。
 魔力量も、いつもに比べれば少ないし。無理せず偵察して帰ろう。

 そう決めて、私はベットから起き上がり──────────────


 「凛。朝食の用意が整った。すぐに着替えて下りてきてくれ。」


 なんて、エプロンを身に着けた、英霊に、起こされた。


 「・・・・・・・・・あんた本当に英霊?。」

 「いきなり失礼だな、凛。言った筈だぞ、私は現代の生まれだと。料理くらい嗜んでいてもおかしくないだろう。」

 いや、おかしいって。
 料理自体はまったく普通でも台所に立ってるアンタが不自然過ぎるのよ。

 「・・・いっか。別に。料理に罪はないんだし・・・」

 それと、確認しなければならない事項を思い出した。
 未来の英霊。私との関係。そしてこの聖杯戦争の結果。
 最後の情報は、とても重要だ。街を歩いてる間にでも聞きだそう。

 暫し思考の海に埋没する。どうも私の悪癖らしく、こうなると周囲への注意が散漫になるらしいのだが。



 「・・・凛。早く着替えたまえ。」


 ・・・あ。


 ◆
 

 ・・・イメージするのは、常に剣。
 乾いた大地。遮るものなど無い蒼穹。
 地平の果てまで広がる丘。そこには全てが有って、恐らくは全てが偽物。

 何処までも終わらない、孤独な丘。

 ──────────────そんな、俺の世界を幻視した。


 「・・・・・・・・・・・・・・・夢・・・・・・か・・・・」

 最近はよく夢を見るようになった。以前は夢なんてあんまり見なかったのだが。
 夢を見ない代わりに1つの剣ばかりを幻視してばかりだったのだけれど・・・

 「・・・・・・まあいいや。」

 時刻は5時前後。いつもとあまり変わらない起床時刻に満足して、手早く身支度を済ませる。
 流石にまだ朝の冷気は堪えるが、負けじと身体を動かす事に専念する。

 まだ暗い廊下を抜けて台所へ向かう。
 今日も虎が餌を求めて民家を襲うだろうし、桜だって同年代の女の子と比較すればよく食べる方に分類されるし。

 そういえば凛はそんなに・・・あれは朝に弱いからか。

 無駄思考をしながら炊飯器をセット。うむ。何合炊いたのかは秘密。
 常備菜のストックを確認しつつ献立を考える。
 ・・・昨日の味噌汁は赤味噌に若布と大根だったし、今日は白味噌に豆腐とタマネギにしよう。
 どっちかってーと白味噌のほうがすきなんだけどなー・・・でも赤味噌は使い道がイロイロあるし・・・
 秋刀魚と玉子焼きに・・・お、ほうれん草発見。茹でて胡麻和えにしよ。
 ぬ。この鹿尾菜冷凍してから・・・・・・まだもつけど使っちまえ。余ったらおにぎりにすればいいし。

 ・・・大体決まったな。
 んじゃあ、適当に下準備だけして鍛錬して汗を流そうかね。
 青春の汗って美しい・・・訳ねーだろ。汗臭えっての。


 ◆


 並んだ撃鉄を上げるイメージ。
 神経を裏返すだけでなく、感情も『こちら側』と『あちら側』とで切り替える。

   トレース・オン
 「同調開始。」

 身体の構成図を読み取る無駄は省き、最速で己の補強可能な箇所へ魔力を流し込む。
 身体の体調や前日の行動の如何で必要な魔力や補強箇所は変化するが、そんな図面を読み取る暇などない。

 目前に迫る刀を跳躍して避わしながら、神経を集中させる。
 距離は2メートル。俺の基本性能ではこれ以上の跳躍はできない。

 ・・・想定した敵は、あの暗殺者のサーヴァント。
 昨夜読み込んだ情報を基本骨子にして、その戦闘理論を展開する。

 細心の注意を忘れるな。己の能力を過信するな。正しく身体の基本性能を把握し強化せよ。
 魔力とは実のところ毒と大差ない。適量ならば薬として利用できる劇薬に他ならない。
 補強箇所へ魔力を過剰に流し込めば、身体は毒に侵され崩壊する。

   トレース・オフ
 「同調完了。」

 さらに迫りくる斬撃。美しさすら感じる軌跡。まるでダンスだ。見惚れて触れれば首をもっていかれるが。

   トレース・オン
 「投影開始。」

 検索。選出。暗殺者のクラスを自称したサーヴァントを打倒する武器を回路に装填する。
 共感。蓄積。装填された武器から理念を経験を抽出して共感して継承する。

 今度はこちらから距離を詰める。
 振り切った刀の内側へ肉薄して銀のアセイミーナイフを振るう。不発。ナイフは奴の服を掠めただけ。

 後退したアサシンに、空であった左手で零挙動で取り出したスローイングダガーを投擲する。
 ダガーには変化によって予め能力が付属されている。
 『発火』の能力を付属させられ機能を変質させられたそれは、飛来の軌道上で紅蓮に包まれた。

   トレース・オフ
 「投影完了。」

 手に現われるのは奴と同じ長刀「物干し竿」。さらに──────────────


     ト  リ  ガ  ー  ・  オ  フ
 「投影────────────装填。」


 飛来したダガーを弾き落として、その炎から離れる。
 落ちたそれは周囲に炎を撒き散らす事無く沈下した。


 視認する。奴の身体性能を認識して継承する。
 幻視する。刀に蓄積された年月と経験を模倣する。


 構える。奴の到達した一つの必殺。その極地。
 愚直な鍛錬を想像して、狂いそうになる自我を殺して、投影魔術では届かぬ領域へ手を掛ける。

 奴と同じ構えに、奴自身も警戒する。
 ・・・そうだ。奴にとっての究極の一撃を打倒できるのは──────────────

 「秘剣・・・」

     セ  ッ  ト
 「全工程投影完了・・・」

 奴の到達した、領域外からの一撃に他ならない──────────────!!


 「燕返し!」


 「偽剣。燕返し!!」



 ・・・・・・・・しん



 「・・・ふぅ・・・」

 遮音・対衝撃の結界を解く。床は以前強化しておいた為に刀が当たっても傷や凹み程度ですんでいる。
 朝早くからどったんばったんと暴れていては近所迷惑だしな。

 手から砂のように零れ消えていく長刀を眺めて、そんな事を考えた。

 やっぱ俺じゃ完全な燕返しは模倣できない。
 佐々木小次郎ではないこの身では、奴の剣技の真似事しかできない・・・か。
 うーん・・・何が足りないんだろう?身体性能は強化で真に迫れるし、技術も経験も共感した・・・
 物干し竿自体は只の長い日本刀だし・・・・・・うん。解析しても他に特別な事なんてない。

 今度ゼル爺にでも相談してみようかな・・・つっても次はいつ会えるのやら。

 たった数分。10分にも満たぬ鍛錬で、知らなければならない、確認しなければならない事項を得るのは難しい。
 ましてその答えとなれば、俺なんかじゃ時間が足りない。まったく。未熟だな、俺も。

 さっさと身支度を済ませて道場を後にする。
 何故か、やけに視線を感じた気がした。


 ◆


 「・・・シロウって何者なの・・・」

 遠見の応用で道場の壁に視覚を移して見た総てに、冬の少女は驚愕していた。
 本来なら魔術師の結界で守られた敷地に視覚を転移する事は・・・不可能ではないけど難しい。
 昨日の晩、シロウが案内してくれた時に幾つか自分専用の窓を作っておいたから容易に転移できたけど。

 「あんなの投影なんかじゃない・・・殆ど物質創造の領域じゃない・・・」

 シロウの投影は出鱈目すぎる。魔力が気化せず、世界からの修正もなく維持し続けるだけでも規格外なのに、
 その投影した武器から相手の情報を読み込んで複写・・・違う、継承して宝具を発動させてる・・・

 実は宝具の発動ではなく、燕返しという業だったのだが、それをイリヤは知らない。

 「でも、変。シロウってば魔術師らしくないんだもん。そのくせ使う魔術は規格外だなんて絶対に変よ。」

 大体、他の魔術師を自分の工房に入れるなんて正気じゃない(ヒデェ!
 まあそのおかげでシロウの様子を覗けたんだけど・・・

 (あ、動き出した。)

 視覚を更に転移する。今度は廊下の壁。そして居間へ移り、また廊下。何処へ行くのだろう?


 ・・・・・・・10分後。


 「あ・・・ああ・・・・・ああああ・・・・あ・・・」

 熱暴走した機械のように、頭部から湯気が昇る少女が何を見たのかは秘密にしておこう。

 「む、無理!絶対にあんなの無理なんだから!!」

 ナニが無理なのか小1時間問い詰めたいんですが。え?これ以上は放送禁止?しょうがねえなあ、ケケケ。

 では、アインツベルン城より、全身ペイントの最弱サーヴァントが御送りしました。スタジオへ返しますです。


 ◆


もりもり元気が湧いてくる!